「はぁ……」職場で誰かがつく大きいたキ息があります。そして、それを聞いた瞬間、なぜか自分までドッと疲れてしまったりします。そして、オフィス全体の空気がピリついたりすることもあります。私もため息をすることもありますし、周りのため息が気になるとこもあります。
近年、こうした職場の無自覚なため息は「ため息ハラスメント(フキハラ)」と呼ばれます。なお、フキハラとは、ため息や舌打ち、無視、威圧的な態度などがもとになるものです。そして、自分の不機嫌さをあらわにして周囲に精神的な苦痛やプレッシャーを与える行為です。また、フキハラは、不機嫌ハラスメントの略です。そして、周囲のモチベーションや生産性を著しく低下させる要因として問題視されています。また、単なる「マナー違反」に見えるため息です。しかし、実は周囲の人の脳に「恐怖」を伝染させているようです。なお、職場のハラスメントとして以前のブログで取り上げています。キーボードハラスメントとは何か?職場で起きる新たな暴力
そこで、今回はため息が周囲の脳をフリーズさせ、生産性を下げることに注目しました。今回脳ログでは、ため息が生産性を下げる心理ストレスなどの要因、弊害、対応策、ため息と脳の動きについて調べましたので以下に説明します。あの人のため息のせいで仕事に集中できない。そして、もしかして自分もやっているかもしれない。このような不安がある方に、明日からの職場環境を劇的に変えるヒントが提供することをめざします。
ため息が周囲の生産性を下げる要因
脳科学が解き明かす「ため息」が恐怖を伝染させるメカニズム
ただの「息を吐く音」が、なぜ周囲の人の仕事の手を止めてしまうことがあります。そして、そこには脳の防衛本能が深く関わっています。以下に説明します。
ミラーニューロンによる「情動伝染」
まず、人間の脳には、他人の行動や表情、雰囲気をまるで自分のことのように鏡のようにトレースする「ミラーニューロン」という神経細胞があります。そこで、誰かが不機嫌そうに「はぁ……」とため息をつきます。すると、周囲の人の脳は無意識にその「ストレスやイライラ」をコピーしてしまいます。そして、これが職場全体にどんよりした空気が一瞬で広がる(情動伝染)の正体です。
扁桃体のハイジャックと前頭葉のフリーズ
また、脳の奥深くにある「扁桃体」は、周囲の危険を察知するレーダーの役割を持っています。不意に聞こえるため息や、トゲのあるため息を、扁桃体は「見えない攻撃・脅威」と認識します。 すると、脳は、外敵から身を守るための「闘争・逃走モード」に切り替わります。そして、ストレスホルモン(コルチゾール)を分泌します。その結果、論理的思考や集中力を司る「前頭葉」への血流が低下し、脳が一時的にフリーズ(メモリ不足)状態になります。
注意点
しかし、ため息を聞いた人は、決して「サボっている」わけではありません。そこでは、何か怒らせることをしただろうか、「機嫌をとるべきかなどを考えたりしています。そして、余計な脳の認知リソース(メモリ)を強制的に消費させられています。そのため、仕事のパフォーマンスが物理的に落ちてしまいます。
弊害:若手が「学習性無力感」に陥る理由
フキハラが慢性化すると、その日の生産性が下がります。そして、働く人のキャリアや組織の未来にまで深刻なダメージを与えます。いわゆる、メンタルブロックのようなものです。なお、メンタルブロックとは、「自分には無理だ」「失敗するかもしれない」といった否定的な思い込みや固定観念によって、無意識のうちに行動や可能性を制限してしまう「心のブレーキ」や「意識の壁」のことです。
「学習性無力感」の恐怖
心理学や脳科学の実験で知られる「学習性無力感」というものがあります。それは、抵抗できないストレスを受け続けると何をしても無駄だと行動を起こさなくなる状態です。つまり、上司や先輩が常にため息をついている環境では、部下は以下のように考えます。例えば、自分がどれだけ頑張って成果を出しても、あの人は満足してくれない。または、この職場の暗い空気は自分の力では変えられないなどです。そして、このように感じるようになり、主体性や挑戦する意欲を完全に失ってしまいます。
早期離職とネガティブな進路選択
特に、若手社員にとって、職場の「心理的安全性」は最重要項目の一つです。つまり、リスクを恐れずに発言・行動できる状態などです。そして、優秀な若手は、以下に示したようなことを考えます。そして、その職場で本来の能力を発揮する前に「この環境から逃げ出すための転職」を選びます。つまり、企業の深刻な人手不足や採用コストのムダを引き起こすトリガーになり得ます。
- 「この先輩のようにはなりたくない(ロールモデルの不在)」
- 「この会社にいても、精神的に擦り切れるだけだ」
対応策:不機嫌の連鎖を断ち切るロードマップ
ため息の本質は、ストレスによって浅くなった呼吸を深くしようとするものです。そして、「自律神経の調整」をする深呼吸のようなものですです。つまり、行為そのものを完全禁止するのは難しいものです。そこで、「出す側のマナー」と「受ける側の防衛策」に分けて対応策を以下に示します。
【出す側のマナー】ため息を「前向きな呼吸」に変換する
自分がストレスを感じて息を吐きたくなった時について考えます。そして、その際、周囲に恐怖を与えない方法に切り替えるのが大人の職場マナーになります。
- 無音の深呼吸に変える: 口から「はぁ」と音を出さず、鼻から静かに深く息を吐き出します。
- 言葉をポジティブに上書きする: 音が出てしまうことがあります。その際、すかさず「よし、仕切り直そう!」「ふぅ、一息入れて次行こう!」と前向きな言葉を声に出してセットにします。そして、周囲の脳の警戒を解きます。
- 物理的に席を外す: 本当に苦しい時は、トイレや休憩スペースなど、人のいない場所に移動して思い切り息を吐きます。
【受ける側の防衛策】「心の境界線」を引く距離のおきかた
フキハラを行う人の多くは、無自覚(ただの癖)の場合が多いです。もしくは、「自分の大変さを察してほしい」という未熟なアピールであるケースがほとんどです。そこで、まともに受け止めて脳のメモリを消費しないための防衛策を示します。
- 課題の分離(アドラー心理学): 「あの人がため息をついているのは、あの人の気分の問題。自分のせいではない」と心の中で線を引きます。
- 実況中継(客観視): 「お、隣の席で自律神経の調整(深呼吸)が始まったな」と、脳内でユーモアを交えて客観的に実況します。なお、この客観視には、扁桃体の興奮を抑える効果があります。
- 物理的遮断: 可能であれば、イヤホン(ノイズキャンセリング)の着用を周囲に相談したり、作業スペースを少し移動したりします。
「ため息」とは、ため息に関するの脳の動き
ため息の根本的なメカニズム:肺の「肺胞」を復活させるため
まず、生理学的に見ると、ため息の正体は「通常の2倍以上の深い呼吸」です。私たちの肺の奥には、酸素と二酸化炭素を交換する「肺胞(はいほう)」という小さな風船が数億個も集まっています。そして、ストレスを感じたり、何かに集中してじっとしていたりすると、無意識に呼吸が浅くなり、この肺胞が徐々にしぼんで(潰れて)しまいます。
また、肺胞がしぼむと酸素の取り込み効率が悪くなります。そのため、身体は「一気に強い圧力をかけて、しぼんだ風船を膨らませよう」とします。これが「ため息」です。つまり、一度に大きく息を吸い込み、それを一気に吐き出しています。そして、これにより、潰れかけた肺胞をリセットして酸素を取り込みやすくしています。
脳が関係するメカニズムと「脳の動き」
ため息が出る一連の流れには、脳の「情動(感情)」を司る部分と、「呼吸(生命維持)」を司る部分の連携が深く関わっています。脳内では以下のようなサインと動きが発生しています。
扁桃体が不快・ストレスを検知
不安、プレッシャー、怒り、退屈などの精神的ストレスを感じます。すると、脳の感情のセンサーである「扁桃体」が激しく興奮します。
視床下部が交感神経を優位にする
そこで、扁桃体の興奮を受け取った「視床下部」は、身体を緊張状態(戦闘モード)にさせようとします。そのために、自律神経の「交感神経」を急激に高めます。そして、これにより、血管が収縮し、筋肉がこわばり、無意識のうちに呼吸が浅く、速く(効率の悪い呼吸に)なってしまいます。
脳幹(のうかん)の「ため息センター」が強制発動
血中の酸素が不足し、ガス交換の効率が落ちる状況になります。すると、生命維持の司令塔である「脳幹(のうかん)」が危機を察知します。特に、呼吸をコントロールする領域です(前ボルツィンガー複合体などと呼ばれる神経細胞の集まり)。
そして、脳幹は、しぼんだ肺胞を感知すると、「このままでは酸素不足になる。強制的に深い呼吸を実行せよ」というサイン(神経ペプチドという化学物質)を出します。
自律神経のリセット(副交感神経への切り替え)
脳幹からの命令によって、身体は大きく息を吸い込み、ハァーと一気に吐き出します。ここでため息の発生することになります。そして、この「息を吐き切る」瞬間に、今度は緊張をほぐす「副交感神経」が刺激され、優位になります。
脳の動きの整理(サインの伝達ルート)
- 扁桃体が「ストレス・不快」をキャッチします
- 視床下部が自律神経を乱し、呼吸を浅くします(肺胞がしぼむ)
- 脳幹が「酸素不足の危機」を察知し、強制リセットのサインを出します
- ため息が実行され、脳と身体がホッと一息つきます(副交感神経の活性化)
まとめ
ここまで、今ため息について、生産性を下げる要因、弊害、対応策、ため息と脳の動きについて説明しました。まず、要因について、脳科学が解き明かす「ため息」が恐怖を伝染させるメカニズムを説明しました。次に、弊害について、「学習性無力感」の恐怖、早期離職とネガティブな進路選択を説明しました。続いて、対応策について、出す側のマナー、受ける側の防衛策を説明しました。最後に、ため息の生理現象について、 ため息の根本的なメカニズム、脳が関係するメカニズムと「脳の動き」について説明しました。
まず、ため息は、身体が発している『お疲れモード』のサインでした。そのため、無理に我慢して体調を崩す必要はありません。そして、出す側は『周りを脅かさないスマートな深呼吸』をする。また、受ける側は『相手の機嫌に巻き込まれない脳内スルー技術』を持つなどが必要になります。受ける側ではなるべく気にしないようにする。また、ため息をする側では、ため息の仕方を配慮する。そして、お互いがほんの少しの脳の仕組みとセルフケアを知るだけで、職場の心理的安全性と生産性は劇的に守られるようになると考えられます。ため息は生理現象なので、する側にも、される側にもなるということを想定した対応が重要な気がしました。

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