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「言ったはず」の落とし穴 — なぜ脳は「想像」と「現実」を間違えるのか?

心理
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 「昨日、確かにお願いしたよね?」「いや、一言も聞いてないよ」ということをよく聞きます。そして、これは、職場や家庭で繰り返され、テレビのドラマなどでも見られます。また、このような不毛な「言った・言わない」の争いはずっと継続されてきているような気がします。そして、相手の言い分に納得がいかず、「相手が忘れているだけだ」と考えている場面もあります。また、「嘘をついているのでは?」と疑っている場面もあるような気がします。

 しかし、実はあなたの脳の中には、「実際に言ったとき」の感覚や、言葉を発した自分の姿がはっきりと残っているはずです。そして、これほど鮮明な記憶があるのに、なぜ食い違いが起きてしまうのでしょうか? また、その正体は、あなたの性格や記憶力の問題ではないようです。そして、それは、脳が備えている「情報のタグ付け機能」の小さなバグにあるようです。なお、この内容に関連したブログがあります。記憶は嘘をつく。なぜ脳は勝手に『自分に都合いい物語』を作るのか?

 私たちの脳は、時に「考えたこと(想像)」と「やったこと(現実)」のラベルを貼り間違えます。そして、存在しない過去を「真実」として保存してしまうことがあるようです。ここでは、脳がなぜ「言ったはず」という架空の記憶を作り上げてしまうのかに注目することにしました。そして、自分や相手の記憶を100%過信することなく、もっと楽にコミュニケーションを取るヒントを得られるようにしたいと思っています。

 ここでは、「言ったはず」になってしまう要因、その際の脳の動きについて調べましたので以下に説明します。

「言ったはず」になってしまう要因

脳のタグ付けミス「ソース・モニタリング」

 まず、「言おう」と頭の中でリハーサルを繰り返すと、そのイメージが非常に鮮明になります。そして、脳はその「鮮明なイメージ」を「実行した事実」として誤ってタグ付けしてしまいます。また、その結果、「言ったはず」という確信が生まれます。

  • 仕組み
    • 脳は、記憶を保存する際にタグ(ラベル)を貼って分類しています。例えば、「これは誰から聞いたか」「これは現実か想像か」などです。
  • エラーの正体
    • 「言おう」と頭の中で何度もシミュレーションします。すると、そのイメージが非常に鮮明になります。
    • そこで、前頭葉が「想像」というタグを貼るべきところに、間違ったタグを張ってしまいます。つまり、間違えて「事実(実行済み)」というタグを貼ってしまいます。

なぜ「思い込み」は加速するのか

 何度も「言わなきゃ」と考えるほど、その架空のシーンが記憶の中で強化されます。また、これを繰り返すと、脳は「想像」と「現実」の境界線を見失います。そして、脳が作業を中断したり、別のことを考えながら行動したりします。すると、「文脈(コンテキスト)」が欠落することになります。

  • 想像の膨張」現象
    • 心理学には、「想像の膨張(Imagination Inflation)」というものがあります。これは、ある行動を想像するほど、それが実際に起きたことと誤解しやすくなることです。
  • マルチタスクと注意力の分散
    • 忙しいとき、脳の管理リソース(前頭葉)は不足します。
    • 「メールの送信ボタンを押そうとした瞬間に電話が鳴った」といった中断があります。すると、脳は「送信しようとした意図」を「送信した事実」として処理を完結させてしまうことがあります。
  • 文脈の欠如: 「いつ、どこで、誰に、どんな状況で言ったか」という周辺情報の文脈があります。しかし、この文脈が、保存されない状態です。
  • メカニズム: 文脈がない記憶は不安定になります。そのため、脳は後から「言おうとしていた内容(意図)」だけを取り出します。そして、勝手にふさわしい文脈を捏造して結合させます。これが「偽りの記憶(偽記憶)」が完成する瞬間になります。

脳が「絶対に正しい」と錯覚する理由

 なぜ「偽記憶」なのに「絶対に正しい」と確信してしまうのかについて説明します。

  • 「流暢性(りゅうちょうせい)」の罠
    • 脳は、思い出しやすい情報を「真実だ」と判断する性質があります。つまり、スラスラ出てくる情報を真実と判断してしまいます。
    • 何度もリハーサルした言葉はスラスラと思い出せます。そのため、脳は「こんなに鮮明に思い出せるなら、実際に言ったに違いない」と確信を深めてしまいます。
  • メカニズム: 人間は、記憶の「内容」そのものよりも、思い出した時の「情報の鮮明さ」を信じてしまう性質があります。そして、文脈を欠いた記憶を脳が補完する際、非常にリアルな「偽の文脈」を作り上げてしまいます。そのため、本人はそれを「偽物」と見抜くことができなくなります。

対策:不毛な争いを避ける「脳のトリセツ」

  • 脳を「疑う」習慣を持つ
    • 「言ったはず」と思ったら脳を疑います。そして、まずは「言おうと強く思っていただけかも?」と一歩引いて考えます。
  • 外部デバイスに頼る(記録の重要性)
    • 脳の「タグ付け機能」は非常に脆いものです。そのため、チャットやメモなど物理的なログを「正解」とするルールを自分の中に作ります。
  • 「お互い様」の精神
    • 相手が「聞いてない」と言うとき、相手が忘れていないと考えてみます。そして、自分の脳が「言った」という偽記憶を作った可能性も五分五分であると認めます。

「言ったはず」という思い込みが起こるときの脳の動き

入力:鮮明すぎる「シミュレーション」

 私たちは何かを伝える前、無意識に脳内で「なんて言おうか」というリハーサルを行います。

  • 脳の動き: 前頭前野が中心となり、言葉を選び、相手の反応を予測します。このとき、実際に声を出さなくても、脳内の言語領域やイメージを司る領域は激しく活動します。
  • ポイント: あまりにも熱心にリハーサルを繰り返します。すると、その脳内の活動記録が、実際に体験した記憶と同じ位の「鮮明さ」を持ってしまいます。

処理:前頭葉による「タグ付け」の失敗

 ここが「思い込み」の核心部です。脳には、記憶に対して「これは現実か?想像か?」というラベルを貼るソース・モニタリング(情報源監視)という機能があります。

  • 脳の動き: 通常、前頭葉が司令塔となります。そして、記憶に「これはさっき考えたこと(想像)」というタグを貼ります。
  • エラーの発生: 疲れ、ストレス、または他のことをしながら考えていると前頭葉の機能が低下します。すると、タグを貼り間違えることが多くなります。
  • 結果: 脳内の「想像」フォルダにあるはずのデータに、誤って「実行済み(事実)」というタグが貼られてしまいます。

保存:文脈の欠如と「脳の自動補完」

 実行されなかった「言った」という記憶には、文脈が欠けています。それは、本来あるべき「相手の返事」や「その場の空気感」といった周辺情報が欠けています。

  • 脳の動き: 脳は不完全な状態を嫌います。そのため、欠けている文脈を過去の似たような経験から勝手に作り出して埋めてしまいます。
  • 偽記憶の完成: 「確かにあの会議室で、相手が頷いているのを見た気がする」といった偽りの記憶があります。そして、その偽記憶が、現在の脳内でリアルに合成されます。

出力:強い「確信」への変換

 なぜ「かもしれない」ではなく「絶対に言った!」と確信してしまうのかについて説明します。

  • 脳の動き: 脳は「思い出しやすい情報(処理の流暢性が高い情報)」を「正しい」と判断するクセがあります。
  • 確信の正体: 何度もリハーサルした内容は、脳にとって非常に引き出しやすい情報です。そして、スラスラと思い出せるため、脳は「これだけ鮮明に思い出せるのだから、事実に違いない」と確証を深めてしまいます。

内容の整理:脳の動き

ステップ担当部位起こっているバグ
1. 準備前頭前野想像がリアルすぎて現実と区別がつかなくなる。
2. 分類前頭葉「やったこと」と「考えたこと」のタグを貼り間違える。
3. 合成海馬周辺足りない記憶(相手の反応など)を勝手に捏造して補完する。
4. 確信側坐核など「思い出しやすさ」を「真実」だと誤認する。

まとめ

 ここまで、「言ったはず」になってしまう要因、その際の脳の動きについて説明しました。まず、その要因について、脳のタグ付けミス「ソース・モニタリング」なぜ「思い込み」は加速するのか脳が「絶対に正しい」と錯覚する理由を説明しました。次に、対策を説明しました。最後に、その際の脳の動きについて、鮮明すぎる「シミュレーション」前頭葉による「タグ付け」の失敗文脈の欠如と「脳の自動補完」強い「確信」への変換を説明しました。

 まず、言ったはずの原因は、想像がリアルすぎて現実と区別できなくなることから始まる脳の中の処理にありました。そこで起こる脳のファイル管理ミスに起因していました。また、前のブログ「記憶は嘘をつく。なぜ脳は勝手に『自分に都合いい物語』を作るのか? 」に内容が近い部分がありました。つまり、脳の記憶の書き換えのためにおこる現象と捉えることができます。そして、脳のクセを知ることで、「言った・言わない」の争いを「脳のエラー」と捉えることが重要になります。そう知ることで「言った・言わない」の争いを減らすことになると思われます。また、「言ったはず」という強い確信は、あなたがそれだけ熱心に伝えようとしていた証拠でもあるような気がしました。

 

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