「認知」という言葉は、心理学でも医学でも広く使われています。しかし、認知症の領域で扱われる「認知」は、日常で使う意味よりもずっと広く、そして深い概念です。つまり、記憶力だけではなく、注意、判断、言語、社会的認知、遂行機能、視空間認知など、複数の脳の働きが組み合わさった“総合的な能力”を指します。また、私たちは、目で見て、耳で聞き、状況を理解し、判断し、行動します。そして、この一連の流れを自然に行っています。しかし、この「自然にできていること」こそが、認知機能の働きによって支えられているものです。
そして、認知症は、この認知機能が脳の病気によって障害されることで起こります。つまり、認知を理解することは、認知症を理解するための最初のステップと言えます。なお、このブログは、以前のブログの「認知と認識」について調べたことでまだモヤモヤした部分があったからです。以前のブログは次のものです。「認知」と「認識」はどう違う?脳が行う“情報処理の深さ”をわかりやすく解説
そこで、このブログでは、認知症の基盤となる「認知」に注目することにしました。そして、認知とは何か、構成要素、認知と脳、加齢の影響、認知症について調べましたので以下に説明します。
認知とは何か:脳が行う“総合的な情報処理”
まず、認知とは、脳が外界から得た情報を受け取り、理解し、判断し、行動につなげるための高次機能の総称です。そして、医学的には「認知機能」と呼ばれ、複数の領域が協力して働くことで、私たちの日常生活が成り立っています。つまり、認知はひとつの能力ではありません。記憶力だけが認知のようなイメージですが、そうではなく、複数の機能が組み合わさった「総合力」です。
認知を構成する7つの領域
記憶(Memory)
まず、記憶は認知の中心的な機能です。そして、記憶は、新しい情報を覚え、必要なときに思い出す能力を指します。
- 体験そのものを覚える
- 名前や言葉を覚える
- 過去の出来事を思い出す
認知症では「体験そのものを忘れる」という特徴的な障害が起こります。しかし、加齢によるもの忘れとは異なり、ヒントを与えても思い出せないことが多くなります。
注意(Attention)
次に、注意は、必要な情報に意識を向け続ける能力です。
- 集中する
- 複数の情報を切り替える
- 周囲の変化に気づく
そして、注意力が低下すると、会話の内容を追えなくなったり、作業を途中でやめてしまったりします。また、レビー小体型認知症では注意力の変動が顕著です。
社会的認知機能(social cognition)
社会的認知機能における見当識とは、時間・場所・人を正しく把握する能力です。そして、その例には以下のようなものがあります。また、認知症では、時間の見当識から障害されることが多く、「今日は何月何日か」がわからなくなることがあります。
- 今日がいつか
- 今どこにいるか
- 目の前の人が誰か
言語(Language)
言語は、言葉を理解し、話す能力です。そして、前頭側頭型認知症では、言語障害が中心となることがあります。
- 言葉の意味を理解する
- 適切な言葉を選んで話す
- 名前を思い出す(呼称)
判断力(Judgment)
状況を理解し、適切な行動を選ぶ能力が判断力です。そして、判断力が低下すると、詐欺被害に遭いやすくなったり、危険な行動を取ったりすることがあります。
- 危険を察知する
- 状況に応じて行動を変える
- 相手の意図を読み取る
遂行機能(Executive Function)
また、遂行機能は、計画を立て、段取りし、実行する能力です。そして、遂行機能が低下すると、複雑な作業が難しくなり、日常生活の自立が難しくなります。
- 料理の手順を考える
- 買い物の順番を決める
- 家事を段取りよく進める
視空間認知(Visuospatial Cognition)
視空間認知は、空間の位置関係を把握する能力です。なお、アルツハイマー病では、早期から視空間認知が障害されることがあります。
- 道順を覚える
- 物の位置を把握する
- 図形や形を理解する
認知は脳のどこで支えられているのか
認知は、以下に示すように脳の広い領域が協力して成り立っています。
- 海馬 : 記憶
- 前頭前野 : 判断・遂行機能
- 側頭葉 : 言語・見当識
- 頭頂葉 : 視空間認知
- 後頭葉 : 視覚処理
認知症は、これらの領域が病気によって障害されることで発症します。アルツハイマー病では海馬が萎縮し、記憶障害が早期に現れます。そして、脳血管性認知症では、障害部位によって症状が異なります。レビー小体型認知症では、注意力の変動や幻視が特徴です。
物忘れ:加齢による変化と認知症の違い
認知は加齢によってもゆるやかに低下しますが、これは病気ではありません。
加齢によるもの忘れ
- 情報処理がゆっくりになる
- 思い出すまでに時間がかかる
- 体験の一部を忘れる
- ヒントがあれば思い出せる
- 日常生活に支障はない
認知症による認知機能低下
- 体験そのものを忘れる
- ヒントを与えても思い出せない
- 自覚が乏しい
- 複数の認知領域が障害される
- 日常生活に明確な支障が出る
そして、これらの違いは、認知症の診断で非常に重要です。
認知症は「認知機能が後天的に障害された状態」
なお、認知症とは、一度正常に発達した認知機能が、脳の病気によって低下し、生活に支障が出る状態と定義されています。
主な原因疾患
- アルツハイマー病
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
それぞれ障害される認知領域が異なるため、症状も異なります。
認知を理解すると認知症が理解できる
認知症の症状は「記憶だけの問題」ではありません。つまり、認知は多領域で構成されているため、どこが障害されるかで症状が変わります。
- 記憶が障害されれば「もの忘れ」
- 注意が障害されれば「集中できない」
- 社会的認知機能が障害されれば「迷いやすい」
- 遂行機能が障害されれば「段取りができない」
- 視空間認知が障害されれば「道に迷う・物を見失う」
そのため、認知症の理解は、認知の理解から始まります。
まとめ
内容の整理
ここまで、認知とは何か、構成要素、認知と脳、加齢の影響、認知症について説明しました。まず、認知とは何かについて、脳が行う“総合的な情報処理”を説明しました。つぎに、構成要素について、認知を構成する7つの領域を説明しました。つづいて、認知と脳について、認知は脳のどこで支えられているのかを説明しました。加えて、加齢の影響について、物忘れを説明しました。最後に、認知症について、認知機能が後天的に障害された状態と認知を理解すると認知症が理解できるを説明しました。
まず、認知は、脳の高次機能の総称で、多領域にまたがるものでした。それらの内容をまとめると以下のようになります。
- 認知は脳の高次機能の総称
- 記憶・注意・言語・判断・遂行機能・視空間認知など多領域で構成
- 加齢による変化と認知症はまったく別物
- 認知症は脳の病気によって認知機能が後天的に障害される状態
- 認知を理解すると、認知症の症状の違いが自然に説明できる
まとめ
認知は、私たちが「自然にできている」と思っている行動の土台にあるものでした。逆に、それができなくなることが生活に支障が出てくるのは容易に理解できました。その働きを知ることは、認知症を理解するための大きな助けになると考えられます。また、記憶・注意・言語・判断・遂行機能・視空間認知などの広い脳の部位で認知が成り立っています。そのため、認知症の症状の種類が多いのも納得できます。ただ、症例が多いのか物忘れに関する印象が強いので、他が薄れてしまうのは心配です。

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