「メタ認知(Metacognition)」という言葉をテレビで時々聞くようになりました。しかし、まだ聞き馴染みがない感じかもしれません。ただし、認知科学や認知心理学などの言葉はすでに浸透しています。このブログでも認知科学、心理学に関係しているものを取り上げています。例えば、「認知バイアスってなに?」、「わからないことがわからない!」、「髪を切ったことにと気づけない人は?」、「アイドルの区別ができない?」など多く取り上げてきました。また、「わからないことがわからない!」では、内容が「メタ認知」という言葉は使用せず、違った側面からのアプローチしています。
今回は、「メタ認知」を直接取り上げ、「メタ認知」がどういうものかについての説明、加えて、「メタ認知の能力を高める方法」について説明しています。
メタ認知について
「メタ認知」とは、「認知についての認知」とよく言われます。そして、言い換えると、自分自身の考え方、感じ方、記憶、行動などを客観的に捉え、理解し、コントロールする能力のことです。まず、「メタ」という接頭語は「高次の」「より上位の」という意味があります。つまり、通常の認知活動(何かを見たり、聞いたり、考えたりする)の上に立って、その認知活動そのものについて考えることを指します。具体的には、以下のような要素が含まれます。
メタ認知的知識(Metacognitive Knowledge)
自分の認知に関する知識のことです。
- 人についての知識: 自分の得意なこと、苦手なこと、記憶の仕方、集中できる時間帯など、自分自身の認知特性についての理解です。つまり、「私は新しいことを覚えるのが苦手だけど、一度覚えたら忘れにくい」「緊張すると早口になってしまう」などです。このような自己認識がこれにあたります。
- 課題についての知識: 課題の性質や、解決のために必要な知識やスキルへの理解です。つまり、「この問題は複雑だから、時間をかけてじっくり取り組む必要がある」「このプレゼンは専門知識のない相手にも分かりやすく伝える必要がある」といった認識です。
- 方略(ストラテジー)についての知識: 課題を解決するための様々な方法や戦略への知識です。つまり、「この情報を覚えるには、キーワードを抜き出してまとめるのが効果的だ」「相手に納得してもらうには、まずメリットを提示してから説明するのが良い」といった知識です。
メタ認知的活動(Metacognitive Activity)
自分の認知を実際にモニターし、コントロールする活動のことです。また、これはさらに「モニタリング」と「コントロール」に分けられます。
- メタ認知的モニタリング(Metacognitive Monitoring): 自分の認知活動の状況を客観的に観察することです。具体的には、「今、話している内容は相手に伝わっているだろうか?」「この問題の解き方で合っているのか?」「ちゃんと理解できているかな?」などです。つまり、もう一人の自分が自分自身を冷静に観察しているような状態です。
- メタ認知的コントロール(Metacognitive Control): モニタリングの結果に基づいて、自分の認知活動を調整・修正することです。具体的には、「伝わっていないかもしれないから、もっと具体例を出して説明しよう」「解き方が間違っているかもしれないから、別の方法を試してみよう」「集中力が途切れてきたから、休憩を挟もう」といった行動がこれにあたります。
なぜメタ認知が重要なのか?
メタ認知能力が高いと、以下のようなメリットがあります。
- 学習能力の向上: 自分の学習状況を客観的に把握します。そして、効果的な学習方法を見つけ、実践できるようになります。
- 問題解決能力の向上: 課題をより深く理解します。そして、適切な解決策を計画・実行・評価できるようになります。
- 自己成長の促進: 自分の強みや弱みを正確に把握します。そして、改善点を見つけて自己を高めることができます。
- 感情のコントロール: 自分の感情の動きを客観視します。そして、適切に対処することで、衝動的な行動を抑えたり、ストレスを管理したりしやすくなります。
- 良好な人間関係の構築: 他者の認知特性や意図を理解しやすくなります。そして、コミュニケーションが円滑になります。
ビジネスや教育の分野でも、メタ認知能力は自己成長やパフォーマンス向上に不可欠なスキルとして注目されています。
メタ認知の能力を高める方法
メタ認知の能力は、意識的に訓練することで高めることができます。そして、大きく分けて、自分の「思考」や「感情」に気づく練習と、それを活用して行動を改善する練習の2つの側面からアプローチすることができます。
自分の思考・感情に「気づく」練習
メタ認知の第一歩は、自分自身を客観的に観察することです。
自分の考えを言語化する習慣をつける
- 思考のモニタリング: 何か作業をしている時や、問題に直面した時に自分の考えを言語化します。具体的には「今、自分は何を考えているんだろう?」「この考えはどこから来たんだろう?」と、心の中で問いかけるなどです。例えば、勉強中に集中が切れたら、「あ、今、違うことを考えていたな」と気づくことが重要です。
- 感情のラベリング: 怒り、不安、喜びなど、感情が動いた時に自分の考えを言語化します。具体的には、「今、自分は〇〇だと感じているな」と、その感情に名前をつけてみるようなことです。この様に、感情を客観視することで、衝動的な行動を抑える手助けになります。
- ジャーナリング(思考の書き出し): 日記のように、自分の頭の中にある思考や感情を自由に書き出すことは非常に効果的です。つまり、書き出すことで、頭の中が整理され、自分の思考パターンや傾向が見えてきます。
自分の学習スタイルや得意なことを知る
- 振り返り: 何か新しいことを学んだ後や、課題を終えた後に振り返ります。具体的には、「どうやって理解しただろう?」「何が難しかったか?」「どんな方法ならもっと効率的だったか?」と振り返ることです。そして、習慣化することにより能力をより向上させることができます。
- 成功・失敗体験の分析: うまくいったこと、うまくいかなかったことの原因を、自分の思考や行動の面から掘り下げて考えることです。具体的には、「なぜあの時、ああ考えてしまったのか?」「どうすれば違う結果になっただろう?」などと分析します。
気づきを活かして「改善する」練習
自分の思考や感情に気づけるようになった段階での行動です。次はその気づきをもとに、より良い結果を出すための行動を計画し、実行し、評価する練習をすることです。
目標設定と計画の見直し
- 具体的な目標設定: 「頑張る」ではなく「〇〇を〇〇時までに終わらせる」のようにします。つまり、具体的で測定可能な目標を立てることです。
- 計画と実行のモニタリング: 計画通りに進んでいるか定期的に確認します。そこで、「なぜ進まないのか?」「何が妨げになっているのか?」を考えます。そして、必要に応じて計画を修正をします。例えば、勉強計画が滞っているなら「集中力が続かないから、30分ごとに休憩を入れよう」といった調整です。
問題解決のプロセスを意識する
- 問題の明確化: 問題に直面したら、すぐに解決策に飛びつくのではありません。ここで、「本当に問題は何なのか?」「何が原因なのか?」を深く掘り下げて考えます。
- 方略の選択と評価: 複数の解決策を検討し、それぞれのメリット・デメリットを比較します。実行後には「この方法は効果的だったか?」「他に良い方法はなかったか?」と評価し、次の機会に活かしましょう。
日常生活での簡単な実践例
- 読書中: 「今読んだ部分、本当に理解できたかな?」「この登場人物はなぜこんな行動をとったんだろう?」と自問自答しながら読みます。
- 会話中: 「自分の話は相手に伝わっているかな?」「相手が本当に言いたいことは何だろう?」と考えながら聞きます。
- 仕事や学習の休憩中: 「今日のタスクはどこまで進んだか?」「どこでつまずいているか?」「この休憩の後、何から始めるのが効率的か?」と軽く振り返ります。
まとめ
メタ認知は、客観的に自分を見ることで、自分自身への知識、解決する課題についての知識を得て、どうしたら解決できるかのストラテジーについての知識を得ること。そして、これらの知識について自分でモニタリングして、間違っている時は修正するコントロールができるようになる。これらの全体がメタ認知というものでした。言い換えると、人に頼らず、周りの状況をつかみ、自分で方針を立てるようになることになります。非常に難しいと思われます。しかし、身に付けるとどんな状況下でも活路を見いだせるようになるような気がします。
また、メタ認知の能力を高める方法で示したように、この能力は一朝一夕に身につきません。しかし、これらの練習を日常生活に取り入れることで、徐々に自分の思考や行動を客観視し、コントロールできるようになっていくと考えられます。これこそ継続は力なりという言葉が当てはまりそうです。
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