「明日から本気を出す」と言いながら、できていないことをよく目に耳にします。つまり、結局その明日が永遠にやってこないということです。また、自分に置き換えても「やるべきことは分かっている」のに動けない。でも、そして、夜、何もできなかった自分を責めて眠る……。そのような類の事もあるような気がします。つまり、やろうとしてできることもあるのにまったくできないこともあります。そして、そんなループから抜け出せないのは、あなたの性格のせいではないようです。それは、脳があなたを『守ろうとして』騙しているだけです。なお、以前のブログで「なぜ「あとでやろう」は忘れられるのか?」を取り上げています。
このブログでは、「あとでやろう」と思ったことができない要因に注目しました。そして、あとでやろうと思ったのにできなくなるメカニズム、対処法について調べましたので、以下に説明します。
「あとでやろう」を妨げる4つのメカニズム
双曲割引:未来の自分を「赤の他人」と見なす脳
行動経済学で最も重要な概念の一つが「双曲割引」です。人間は、報酬の時期が遠くなるほど、その価値を弓なりに急激に割り引いて見積もります。これが双曲割引です。この「弓なり」の形状から双曲になっています。
- 時間的非整合性: 今すぐもらえる「1万円」と1年後の「1万1000円」を比較します。そして、この状況では、多くの人が前者を選びます。つまり、脳の側坐核は即時的な快楽に弱く、遠い未来の大きな利益を過小評価します。
- 他人事としての未来: fMRI(磁気共鳴画像法)を用いた研究でがあります。人が「未来の自分」を想像する時、脳は「自分」を想像する部位は活性化しません。そして、未来の自分ではなく「見知らぬ他人」を思い浮かべる時と同じ部位が活性化します。つまり、脳内では、未来の自分は「赤の他人」ということになります。
- 結論: あとでやると言っている時、未来の自分、赤の他人がやると思っていることになります。そして、脳は「今の苦労を、知らない誰かに押し付けてラッキー!」と思っています。
感情調節の失敗:タスクではなく「不快な感情」の先延ばし
最新の心理学では、先延ばしは「時間管理の欠如」の問題とは定義されていません。また、「短期的気分修復(Short-term mood repair)」の問題だと定義されています。
- 扁桃体のハイジャック: やるべきタスク(勉強、書類作成など)を思い浮かべた瞬間、不快な感情を検知します。つまり、脳の扁桃体が「退屈、不安、自信のなさ」を検知し、それを「脅威」と見なします。
- 逃避による報酬: その不快感から逃れるためにスマホを見たり掃除をしたりします。すると、一瞬だけ不安が消えて脳がリラックスします。そこでは、この「逃避による安心」が報酬となります。そして、脳が「先延ばし=正解」と学習してしまいます。
- 結論: 先延ばしは、今この瞬間のストレスから自分を守るためのものです。つまり、脳の「誤った自己防衛反応」ということになります。
計画の錯誤:脳が描く「完璧な未来の自分」
1979年にダニエル・カーネマンらが提唱した、自身の予測を楽観視しすぎる認知バイアスです。
- ナラティブ・フォール(物語の罠): 脳は過去の「時間がかかって苦労した経験」を無視します。そして、未来を「障害が一つもない理想的なストーリー」でシミュレーションします。
- 未来の万能感: 私たちは無意識に「明日の自分は、今よりもっと集中力があり、体調も万全で、やる気に満ち溢れている」というスーパーマンのような自分を想定してしまいます。つまり、明日の自分への「過大評価」をします。
- 結論: 「あとでやればすぐ終わる」という予測は、明日の自分への過大評価になります。つまり、脳が作り出した根拠のない推測に過ぎません。
ウィルパワー(意志力)の枯渇と「決定疲れ」
意志力は、前頭前野が司る有限のエネルギーリソースであるという考え方です。なお、意志力とは、セルフコントロール能力とも言われます。)「意志力の枯渇」 = 脳の「バッテリー切れ」
- エゴ・デプレッション(自我消耗): まず、些細な決断を繰り返すたびに、意志力のバッテリーは削られていきます。例えば、朝起きてから「何を着るか」「何から手を付けるか」などです。
- 夜の無防備: 仕事や学校から帰った夜、脳はすでに「決定疲れ」の状態にあります。そして、前頭前野が機能低下を起こしているため、理性的判断ができません。そのため、本能的な「楽をしたい」という欲求に抗えなくなります。
- 結論: 意志力が底を突いた状態で「あとで(夜に)やろう」と決めるのは、ガス欠の車でドライブに行こうとするのと同じで物理的に不可能なのです。
「あとでやろう」に対する処方箋
「2分ルール」で脳の拒絶反応を無効化する
脳の扁桃体は「大きなタスク」を脅威と感じてフリーズします。しかし、「2分で終わる作業」には反応しません。
- テクニック: やるべきことが目の前にある時、それが2分以内に終わることなら「今すぐ」やります。もし、大きなタスクなら、「最初の2分間だけ」手を付けると決めます。
- 脳への効果: 「たった2分」という低コストな目標を設定します。これにより、脳の防衛本能(先延ばし)をスルーして作業興奮を引き起こします。そして、そのまま継続しやすくなります。
「未来の自分」を具体化して、赤の他人から卒業する
脳が未来の自分を「他人」だと思っているとします。このような条件下では、その「他人」を徹底的に具体化して親近感を持たせるようにします。
- テクニック: 「明日やる」のように抽象的には設定しません。「明日の午前10時に、このデスクに座ってコーヒーを一口飲んだ瞬間の自分」を映像として想像します。さらに、「今やらなかったせいで、夜に自己嫌悪で落ち込んでいる自分」の感情をリアルに先取りします。
- 脳への効果: 未来の自分を具体化します。そして、それにより脳が「未来の自分=今の自分」と認識しやすくなります、その結果、双曲割引(未来の報酬を軽視するバグ)の悪影響を抑えることができます。
「10分後の自分」へのギフト戦略
意志力(ウィルパワー)に頼るのではなく、「環境」を整えることで脳の負荷を減らします。
- テクニック: 「今すぐ全部やる」のが無理と判断します。その場合、次に再開する時のための「お膳立て」だけをします。
- 資料作成なら、ファイルを開いて1行目だけ打っておきます。
- 勉強なら、参考書のページを開いてペンを置いておきます。
- 脳への効果: 次にタスクに向き合った時、脳は「ゼロからの開始」ではなく「続き」として認識します。そのため、ツァイガルニク効果(中断したものが気になる性質)が働きます。その結果、「続きを終わらせたい」というポジティブな執着が生まれます。
まとめ
ここまで、あとでやろうと思ったのにできなくなるメカニズム、対処法について説明しました。まず、あとでやろうと思ったのにできなくなるメカニズムについて、双曲割引、感情調節の失敗、計画の錯誤、ウィルパワーの枯渇と「決定疲れ」を説明しました。次に、対処法について、「2分ルール」で脳の拒絶反応を無効化する、「未来の自分」を具体化して、赤の他人から卒業する、「10分後の自分」へのギフト戦略を説明しました。
まず、「あとでやろう」にこれだけ多くの心理メカニズムが関係しているのには驚きました。まず、未来の自分が他人であるとは思ってもみませんでした。そして、ウイルパワーの枯渇が関係しているとも思いませんでした。それは、夜になって落ち着いているため、脳のバッテリー切れが関係しているとも思いませんでした。
また、やる気が出るのを待つのは、ほとんど不可能のような気がします。つまり、やる気は、動いた後にしかやってこないようです。そのため、まずは2分だけ、未来の自分にプレゼントするつもりで行動してみても良いかもしれません。

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