「通常価格10,000円が、今だけ半額の5,000円!」という表示を見ると、なぜかお得に感じてしまう。また、テレビでも見たことがあるのですが、不動産屋で最初にものすごく高い物件を見せられた後、次に普通の価格の物件を見ると「意外と安いな」と思ってしまう。このように最初の情報に後々の行動が影響を受けてしまうことをアンカリング効果と呼びます。ここでは、アンカリング効果がどういうものか、アンカリング効果の具体例、アンカリング効果が起きる理由、アンカリング効果にとらわれないようにする対策、脳との関係についても説明しています。
アンカリング効果とは
最初に提示された情報や数字(アンカー)が、その後の判断や意思決定に大きな影響を与える心理現象をアンカリング効果と言います。また、「アンカリング」の語源は、船を固定する「錨(アンカー)」に由来します。そして、船が錨を下ろして動けなくなるように、私たちの思考も最初の情報に縛られてしまいます。そして、そこから大きく離れることができなくなってしまう様子を比喩的に表していることです。
アンカリング効果が適用されている場面
価格表示
「通常価格10,000円が、今だけ特別価格の5,000円!」という広告をよく見かけます。まず、この場合、最初に提示された「10,000円」という数字がアンカーとなります。そして、その後の「5,000円」という価格が非常に安く、お得に感じられます。しかし、これが他の店では5,000円が通常価格だったとしても、最初に高い数字を見ているため、購買意欲が高まります。
価格交渉
ビジネスの価格交渉において、最初に高めの金額を提示することで、その後の交渉が有利に進むことがあります。それにより、相手は最初に提示された高い金額を基準に考えます。そして、その後に提示される現実的な金額が妥当に感じられ、合意に至りやすくなります。
不動産・営業
不動産屋で最初にものすごく高額な物件を見せられます。そして、次に「普通の」価格の物件を見ると、「なんだ、このくらいなら安いな」と思ってしまうことがあります。つまり、最初の高額な物件がアンカーとなり、その後の物件を相対的に安く感じさせているのです。
遅刻の報告
待ち合わせに遅れそうなとき、「10分遅れます」と伝えるよりも、あえて「30分遅れそうです」と伝えたます。そして、実際には15分で到着すると、「あれ?思ったより早く来てくれた」と相手に良い印象を与えることがあります。これも、最初の「30分」という数字がアンカーになっています。そして、その後の評価に影響を与えている例になります。
なぜアンカリング効果が起きるのか
アンカリング効果は、人間の脳が情報を効率的な処理をする「ヒューリスティック」の一種です。これは、すべての情報を一から分析するのではありません。つまり、手元にある最初の情報を基準としてしようします。そして、そこから調整しながら判断を下そうとします。しかし、この調整は不十分なことが多く、最初の情報に引きずられてしまいます。
この効果は、意思決定や行動経済学の分野で盛んに研究されています。また、マーケティングやビジネス戦略に広く活用されています。そして、アンカリング効果の存在を知ることは、私たちがより客観的で賢明な判断を下すための重要な第一歩となります。
日常生活に潜むアンカリング効果の具体例
ビジネスシーン
- 価格交渉: 最初に高い希望価格を提示します。そして、これにより、その後の交渉を有利に進めます。
- プレゼンテーション: まず、他社の高価な類似サービスを例として挙げます。これにより、企画の良さを示す印象を与えます。
マーケティング
- 商品価格: 「〇〇% OFF」や「限定価格」の表示をします。そして、元々の価格(アンカー)を基準にお得感を演出します。
- セット商品: 高価な商品に安価な商品をセットします。そして、これにより、全体のお得感を高めます。
人間関係
- 面接: 最初に提示された給与額が重要になります。つまり、その金額がその後の交渉の基準となってしまいます。
- 他人への評価: 友人の「あの人は少し変わってるよ」という最初の言葉があったとします。それが、その人への印象を決定づけてしまいます。
アンカリング効果にとらわれないための対策
- 最初の情報から離れて考える: 提示された数字や情報が本当に妥当かをその場で判断しない。まず、一度立ち止まって冷静に考えます。
- 複数の情報を比較する: 一つの情報に縛られないようにします。そのために、複数の選択肢や情報を集めて比較検討するようにします。
- 自分で基準を作る: 事前に独自の基準を決めておきます。具体的には、「自分はこのくらいの価格なら買おう」「このくらいの条件なら交渉しよう」などです。
脳とアンカリング効果の仕組み
認知的省力化
私たちの脳は、日々膨大な情報にさらされています。しかし、そのすべてを詳細に分析していては、膨大なエネルギーを消費してしまいます。そのため、脳は最小限の労力で意思決定を下そうとします。アンカリング効果は、この「認知的省力化」の一環として、最初に得られた情報を基準点を利用します。そして、そこから少し調整するだけで判断を完了させるという効率的な手法です。しかし、この調整は不十分なことが多く、結果として最初の情報に強く引きずられてしまいます。
ベイズ推定との関連
一部の研究では、アンカリング効果は脳内の「ベイズ推定」という確率計算のモデルと関連している可能性が示唆されています。ベイズ推定は、新しい情報(アンカー)を得るたびに、既存の信念や予測を更新する数学的な手法です。アンカリング効果の実験結果は、このベイズ推定モデルに当てはまることがわかっています。そして、脳が情報を処理する際に、無意識のうちに最初の情報に重み付けをしてしまう可能性を示しています。
情報処理の枠組み(スキーマ)
脳は、過去の経験や知識を整理し、「スキーマ」という情報処理の枠組みを形成しています。例えば、「定価が高い商品は品質が良い」というスキーマがあります。これにより、最初に提示された高い定価(アンカー)がその後の価値判断に影響を与えます。アンカリング効果は、このスキーマが活性化されます。そして、最初の情報が強力な基準点として機能することで引き起こされます。
まとめ
ここまでに、アンカリング効果、例、起きる理由、とらわれない方法などについて説明しました。そして、アンカリング効果が、価格表示、価格交渉、不動産・営業、遅刻の報告などの多様な場面で活用されていることを示しました。また、アンカリング効果にとらわれないための方法を示しました。具体的には、最初の情報から離れて考える、複数の情報を比較する、自分で基準を作るなどです。そして、脳との関係で、認知的省力化、ベイズ推定との関連、情報処理の枠組みを示しました。
このように、アンカリング効果は単なる心理的な錯覚ではありません。人間が情報を効率的に処理するために脳が自然に行っているプロセスです。そして、意思決定における根本的な特性です。これらの結果から、「アンカリング効果は誰もが無意識に陥る心理現象であり、その存在を知ることが、より賢明な判断を下すための第一歩になる」と考えることができます。
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