「この仕事を片付けたら、ご褒美に美味しいものを食べよう。」このような自分に対するご褒美を考えることがあります。また、「テストで良い点を取ったら、お小遣いをあげる。」そして、このように親が子供にご褒美を設定することがあります。このように、ご褒美は、一時的に私たちや子どものやる気を引き出す強力なツールです。しかし、好きで始めたことや自発的にやっていたこととは異なります。そのため外部からの報酬を与え始めた途端に、かえって興味を失うことがあります。このような奇妙な逆転現象が起きることがあります。
また、このご褒美の罠は、心理学で「アンダーマイニング効果(Undermining Effect)」と呼ばれています。そして、行動理由が楽しいからという内発的な動機から、報酬のためという外発的な動機にすり替わってしまうために起こる現象のようです。
このブログでは、まず、このアンダーマイニング効果が起きるメカニズムについて説明します。そして、いろいろな場面に応用できる、内発的な動機づけの「炎」を消さずに、継続的な意欲を引き出す報酬の賢い使い方について説明します。
ご褒美が「毒」に変わるメカニズム
動機づけの種類
- 内発的動機づけ(Intrinsic Motivation):
- 定義: 行動それ自体が目的であり、内面的な満足感に基づいて行動することです。つまり楽しい、興味がある、やりがいがあるといった感覚を持ち行動することです。例えば、純粋に読書が好きで本を読むなどです。
- 特徴: 継続性が高く、創造性が発揮されやすいです。
- 外発的動機づけ(Extrinsic Motivation):
- 定義: 行動の目的が、報酬、罰、評価といった外部の要因にあることです。例えば、お金をもらうために仕事をする。または、怒られないように掃除をするなどです。
メカニズムの核心:アンダーマイニング効果
- 定義: すでに内発的な動機で活動が外発的な報酬により内発的な動機が低下する現象です。
- 心理的変化:
- 報酬が導入される前: 私は楽しいからやっている。
- 報酬が導入された後: 私は報酬をもらうためにやっている。
- 認知の転換: 行動の理由を内側ではなく外側にすり替えてます。これは、動機の帰属の転換になります。そして、その結果ご褒美がなくなると、行動する理由もなくなってしまいます。
実験の紹介
- デシのパズル実験(Deci’s Puzzle Experiment):
- パズルを純粋に楽しんでいた学生を報酬を与る、与えないグループに分けました。そして、報酬がなくなった後の休憩時間の行動についてこれらのグループを比較しました。そして、その結果、報酬があるグループの方がパズルをやる時間が減りました。つまり、やる気が失われました。
逆効果にならない「ご褒美」の使い方
ご褒美すべてが悪いわけではありません。そこで、動機づけを維持・向上させるための、報酬の賢い使い方を説明します。
報酬が逆効果になりやすいケース(注意が必要な報酬)
- ① 期待されている報酬: 「もし〜すれば、〜をあげる」という、行動の前に約束された報酬。
- ② 統制的(コントロール的)な報酬: 報酬によって行動を操作しようとする意図が強い場合。
報酬が効果的になりやすいケース(内発的動機づけを損なわない報酬)
- ① 予期しない報酬: 行動が終わった後でサプライズとして渡される報酬。そして、まさかご褒美をもらえるとは思わなかったと感じられるものです。
- ② 情報的報酬(フィードバック):
- 報酬を能力や達成度を認めるメッセージとして使います。例えば、お金ではなく、「君のこのアイデアは、チームで最も独創的だったよ!」という評価・賞賛をします。
- これは、有能感や自己決定感といった内発的動機づけの要素を高めることができます。そのため、やる気を維持・向上させる効果があります。
まとめ
ここまで、アンダーマイニング効果が起きるメカニズム、いろいろな場面に応用できる、内発的な動機づけの「炎」を消さずに、継続的な意欲を引き出す報酬の賢い使い方について説明しました。まず、アンダーマイニング効果が起きる、つまり、ご褒美が「毒」に変わるメカニズムについて、動機づけの種類、アンダーマイニング効果、実験の紹介から説明しました。次に、逆効果にならない「ご褒美」の使い方について、報酬が逆効果になりやすいケース、報酬が効果的になりやすいケースから説明しました。
また、これらの結果から、子育てでは結果ではなく努力や工夫を褒めることが重要でした。そして、マネジメントでは、報酬よりも適切なフィードバックや裁量を与えることを意識することが重要でした。そして、自分自身に対しては、「なぜこれをやっているのか?」と問いかけ、行動の理由を「楽しさ」に求め直すことが重要でした。
そして、短期的な行動を促す外発的なご褒美は強力です。しかし、長期的な成長や創造性、継続性の場合は、内発的な動機を消さないことが重要でした。そのため、「ご褒美を一切やめましょう」ということではなく、「ご褒美を賢く使い分ける」ことが重要な気がしました。


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