たった3泊4日の旅行だったのに、帰る頃には1ヶ月くらい旅をしていたような気分になる。一方で、代わり映えしない仕事の1週間は一瞬で過ぎ去る。つまり、旅行している時はゆっくり時間が過ぎ、日常はあっという間に過ぎる。この差は一体どこから来るのかという疑問が浮かびます。まず、 時間は時計で測る「物理的な時間」があります。そして、脳が感じる「心理的な時間」の2種類もあります。ここで感じるのは、心理的な時間になります。そして、この 仕組みを知ることで、旅行だけでなく「人生そのものを長く、濃くする方法」が見えてくるかもしれません。
このブログでは、旅行先では時間がゆっくり感じる要因、心理的な時間の脳内での処理について調べましたので以下に説明します。
旅行先では時間がゆっくり感じる要因
脳の「オートパイロット」と「新規探索」
日常と非日常の脳の状態の違いを対比してみます。
- 日常(時間の圧縮): 通勤路や家事など、慣れ親しんだ行動をするとき、脳は「省エネモード」に入ります。そして、新しい刺激がないため、脳は情報を記録をすることはありません。そのため、結果として記憶のデータ量がスカスカになります。
- 旅行(時間の拡張): 初めて歩く街角、見たことのない看板、異国の料理など初めての感覚があります。そして、脳はすべての情報を「重要事項」としてフルスピードで処理・記録します。そして、その結果、この「情報の書き込み量の多さ」が、時間の密度を上げます。

記憶の「フォルダ分け」理論
なぜ「振り返ったとき」に長く感じるのかを、記憶の仕組みから説明します。
- 記憶の密度: 脳は「思い出せる出来事の数」で時間の長さを判定します。
- たとえ話:
- 日常: 1週間という大きな箱に、似たような記憶が1つ入っているだけのようなものです。そして、その体感の時間は短い感じます。
- 旅行: 「空港でのトラブル」「絶景の感動」「美味しい夕食」などの出来事があります。そして、そのため1日の中に新しいフォルダが大量に作られます。また、その体感の時間を長く感じます。
- ジャネの法則との関係: 新鮮な体験が多い子供時代は1年が長く感じます。そして、刺激が減る大人になると1年が早くなります。これと似たような関係にあります。なお、以前のブログ「子供のころ遠く感じていた場所が近くに感じる」にジャネの法則に関係した内容を記載しています。
人生の満足度を上げる「時間のカスタマイズ」
これまで説明したことから旅行以外の日常生活にも応用できることがあります。以下に説明します。
- 「初めて」を増やす: 毎日違う道を歩く、新しいカフェに入るなど初めてのことをします。つまり、脳のオートパイロットを解除する工夫をします。
- 感情の起伏を記録する: 日記や写真で「記憶のフック」を増やします。そして、後から振り返ったときの人生の体感時間を延ばすことができます。
- マインドフルネスの視点: 「今、ここ」の感覚に集中します。そして、これにより、時間の解像度を上げます。
関連している事柄
- リターン・トリップ・エフェクト(帰路効果)
リターン・トリップ・エフェクトは、往復の移動で物理的な距離や所要時間が同じです。しかし、それにもかかわらず、帰り(復路)のほうが往路よりも短く感じる心理的な現象です。そして、初めての場所への道中など、帰りは道のりが予測できるため安心感が生まれます。その結果、心理的負担が軽減されて時間が短縮されたように錯覚します。 - ホリデー・パラドックス(休暇の逆説)
ホリデー・パラドックスは、楽しい休暇中は時間が過ぎるのが速く感じられます。しかし、後から振り返ると長く感じられる心理現象です。これは、楽しい時は脳が新しい情報を多く記録して記憶が濃密になるために起きます。そして、後で思い出す際に「長く」感じられる一方で、過ぎ去った時間は一瞬だったという矛盾を指します。
脳内での処理について
海馬と扁桃体の役割分担
脳の中では、海馬と扁桃体の2つは隣り合わせに位置しています。そして、密接にコミュニケーションをとっています。
- 海馬(エピソード記憶の管理人):
「いつ、どこで、何をしたか」という出来事を整理し、記憶として保存する場所です。 - 扁桃体(感情の着火剤):
「楽しい!」「怖い!」「すごい!」といった感情を司る場所です。
なぜ「旅の記憶」は時間が伸びるのか?
日常と旅行中では、この2つの連携プレーの激しさが全く異なります。
感情が動くと、記憶に「重要ラベル」が貼られる
日常のルーティンでは感情が大きく動かないため、扁桃体は静かです。そして、海馬も「あ、これは保存しなくていい情報だな」と判断し、記憶を間引いてしまいます。
しかし旅行中は、絶景を見て感動したり、言葉が通じず焦ったりします。そのため、扁桃体がフル稼働します。そして、扁桃体が興奮すると、隣にある海馬に向かって「これ、めちゃくちゃ大事な情報だから、絶対忘れるなよ!」と強烈な信号を送ります。
記憶の「解像度」が跳ね上がる
信号を受けた海馬は、その瞬間の景色、音、匂いなどを、普段よりも高い解像度(細かさ)で記録します。
- 日常: 低画質の動画をパラパラ見ているような状態です。
- 旅行: 4Kの超高画質スローモーションで記録しているような状態です。
振り返ったときに「長い」と感じる理由
家に戻ってから旅行を振り返るとき、脳内には大量の高精細な記憶が存在しています。そして、脳は「これだけ大量のデータがあるということは、それだけ長い時間が経ったはずだ」と逆算して判断します。これが、旅行の時間がゆっくり、長く感じられる正体になります。
「戦略的先延ばし」との意外な共通点
実は、前回のブログ「“先延ばし”は性格ではなく戦略だった?」も、この扁桃体が関わっています。また、「やりたくないな」という不安(扁桃体の反応)を回避しようとする脳の動きが先延ばしを生みます。そして、どちらも、脳の特性を理解して「乗りこなす」という視点では同じ傾向のような気がします。
- 旅行中: 扁桃体を「ワクワク」で刺激して、時間を濃くします。
- 仕事中: 扁桃体の「不安」を上手くコントロールして、締め切り直前の集中力を爆発させます。
まとめ
ここまでこのブログでは、旅行先では時間がゆっくり感じる要因、心理的な時間の脳内での処理について説明しました。まず、旅行先では時間がゆっくり感じる要因について、脳の「オートパイロット」と「新規探索」、記憶の「フォルダ分け」理論、人生の満足度を上げる「時間のカスタマイズ」を説明しました。次に、心理的な時間の脳内での処理について、海馬と扁桃体の役割分担、なぜ「旅の記憶」は時間が伸びるのか?、「戦略的先延ばし」との意外な共通点について説明しました。
まず、旅行で時間がゆっくり流れるのは、自分の脳が世界に対して「好奇心」を全開にしている証拠になります。逆に、日常は、好奇心がほとんどわかずすごしていることになります。そして、日常を忙しさに流されず、あえて「不慣れなこと」に挑戦することが充実を生むと考えられます。また、そのように考えることで脳を働かせる機会を増やすことができるような気がしました。
よく年を取るに従って時間が過ぎるのが早く感じるということをよく聞きます。そして、これは新しく体験する、始めることが少なくなっているということになります。ということは、よく新しい経験、新しいことを始めている人は、そこまで時間が早く過ぎていないかもしれません。あくまでも、「心理的な時間」はもともと個人個人により異なるので比較には向いていないような気はします。

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