テレビで目隠しをして食べて食べたものを当てるということをやっていました。しかし、正答率はそんなに高いものではありませんでした。また、風邪をひいたときに味がわからなくなることがあります。もし、舌だけで味を感じていいたら風邪をひいても味に影響はないと思われます。
また、高級レストランの静かな音楽は、単なる雰囲気作りのためだけではないようです。つまり、科学的な根拠に基づいた「美味しい」体験を演出するためのようですです。ここには、心理学、脳科学、そしてマーケティングの要素が複合的に絡み合っているようです。
このブログでは、五感での味覚の感じ方、心理的効果、脳と味覚の関係という視点から、味は舌だけで決まるのではないということを説明します。
五感で味を感じる
味覚は、舌にある味蕾(みらい)だけで感じると思われがちですが、実際には、脳が様々な情報を統合して「味」を認識しています。このプロセスには、舌以外の多くの感覚が関わっています。
視覚:色が味の期待値を操作する
私たちが食べ物を口にする前に、まず視覚が働きます。そして、皿の色や食べ物自体の色をみることが、味の感じ方に大きな影響を与えます。
色の不一致が混乱を引き起こす: 同じ味のゼリーでも、緑色であれば「メロン味」を、赤色であれば「イチゴ味」を連想します。もし緑色のゼリーがイチゴ味だった場合、脳は混乱します。そして、期待した味と実際の味のギャップを感じます。
色が味の「先入観」を作る: 例えば、赤い皿に盛られた料理は、食欲を増進させ、より美味しく感じられる傾向があります。一方で、青い皿は食欲を抑制すると言われています。これは、私たちの脳が色に対して無意識に特定のイメージを抱いているためです。
嗅覚:味覚の大部分は「香り」
舌で感じる基本の味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)はわずか5種類です。しかし、味の豊かさは、ほとんどが嗅覚によって生み出されています。
香りによる味の補強: 例えば、コーヒーの香ばしさや、リンゴの爽やかな香りが挙げられます。そして、香りが味そのものをより深く感じさせます。
風味の正体: 食べ物を口に入れた時、鼻から吸い込んだ香りが、舌で感じた味と結びつきます。そして、初めて「風味」として認識されます。また、風邪をひいて鼻が詰まっていると香りがわからなくなります。つまり、香りがしないことが食べ物の味がほとんどしなくなる原因となっています。
聴覚:音が食感や新鮮さを伝える
意外に思われるかもしれませんが、食べ物を噛む音や、調理する音も味覚に影響を与えます。
音の演出: 食事中に流れるBGMや、お店の雰囲気も味の感じ方を変えます。クラシック音楽が流れるレストランでは、高級感が増します。そして、より繊細な味を感じやすくなると言われています。
食感の認識: ポテトチップスを噛む時の「パリパリ」という音は、その食べ物が新鮮でクリスピーであることを脳に伝えます。この音が小さいと、脳は「湿気ている」と判断します。そして、美味しくないと感じる可能性があります。
触覚(テクスチャー):舌触りや硬さが味の一部
食べ物の温度、硬さ、滑らかさといったテクスチャーも、味の重要な要素になります。
温度: 飲み物の温度は味に大きな影響を与えます。温かいものは甘味を、冷たいものは苦味を感じやすくします。熱いスープは体が温まる美味しさを、冷たいジュースは爽快感を覚えます。
口当たり: 同じ材料でも、プリンのように滑らかな口当たりと、ゼリーのように弾力のある口当たりでは、感じる美味しさが異なります。
心理的効果
聴覚による「味覚」の操作
私たちの脳は、五感から入る情報を統合して「味」を判断します。特に、聴覚は味覚に大きな影響を与えます。
周波数と味の関連性: 意外かもしれませんが、音の周波数と味覚には関連があるという研究があります。それは、高周波音は甘味や酸味を強調、低周波音はうま味や苦味を強調するというものです。静かで落ち着いたクラシック音楽などは、料理の繊細な味をより際立たせる効果が期待できます。
音量と味の感じ方: 騒々しい場所での食事は、味を正確に感じにくいことが研究で示されています。これは、騒音が脳の「注意」を分散させ、味覚を司る領域への情報伝達を妨げるためです。逆に、静かな音楽は、この妨害を防ぎ、食事に集中できる環境を作り出します。
このように脳は、五感から入る情報を統合して「味」を判断します。特に、聴覚も味覚に影響を与えています。
ブランド価値とリラックス
静かな音楽は、お客様の心理に働きかけ、レストラン全体の体験価値を高めます。
リラックス効果: ゆったりとした音楽は、お客様の心拍数や呼吸を落ち着かせます。そして、リラックスした状態に導きます。このリラックスした状態は、料理をより深く味わうための土台となります。そして、急いで食べるのではなく、一皿一皿をじっくりと楽しむことを促します。
高級感の演出: ゆったりとしたクラシック音楽やジャズは、落ち着きと洗練された雰囲気を与えます。これにより、お客様は「特別な場所に来た」と感じます。そして、食事の価値が高まったと無意識に認識します。
会話とプライベート空間の確保
高級レストランでは、お客様同士の会話が重要視されます。静かな音楽は、その会話を邪魔しないように配慮されています。
隣のテーブルとの境界: 静かなBGMは、隣の会話が聞こえてくるのを緩和する効果もあります。これにより、各テーブルが独立したプライベートな空間となります。そして、お客様はより快適に食事を楽しむことができます。
会話の邪魔にならない音量: BGMが大きすぎると、相手の声が聞こえにくくなります。そして、会話が途切れてしまいます。しかし、静かな音楽は、プライベートな会話を楽しむことができます。そして、食事に集中できる環境を提供します。
脳と味覚の関係
味は舌だけで感じるものではなく、脳が複数の感覚器官からの情報を統合して認識します。これを多感覚統合と呼びます。単なる味覚情報だけでなく、視覚、嗅覚、聴覚、触覚が脳の中で組み合わさります。そして、最終的な「美味しい」という感覚が生まれます。
脳機能と味の統合
- 一次味覚野: 舌の味蕾から送られた甘味、塩味、酸味、苦味、うま味といった基本的な味の情報は、まず脳の一次味覚野に伝達されます。
- 眼窩前頭皮質(OFC): ここが味覚統合の中心地です。OFCは、一次味覚野から受け取った味の情報に加え、視覚(食べ物の色や見た目)、嗅覚(香り)、触覚(食感や温度)といった他の感覚器官からの情報を受け取ります。これらの情報がこの場所で一つにまとめられ、総合的な「風味」として認識されます。
- 報酬系: 味が良いと判断されると、脳の報酬系(特に側坐核や腹側被蓋野)が活性化します。そして、報酬系の活性化からドーパミンが分泌されます。このドーパミンは快感を生み出します。「美味しい」というポジティブな感情、それをまた食べたいという意欲につながります。
味覚に影響を与える要因の脳機能的解釈
- 視覚: 食べ物の色や形、皿の色といった視覚情報は、脳の視覚野からOFCに送られます。この視覚情報は、食べる前に「どんな味がするだろう」という期待値を形成します。そして、実際に食べた際の味の認識に影響を与えます。例えば、赤い食べ物を見ると、脳は甘い味を連想しやすく、味覚野での甘味の認識を強化します。
- 嗅覚: 食べ物の香りは、舌で感じる味よりもはるかに多くの情報を伝えます。香りの情報は、嗅覚野からOFCに直接送られます。嗅覚は、感情や記憶を司る扁桃体や海馬と密接な関係にあります。そのため、特定の香りが過去の食体験の記憶を呼び起こし、味の感じ方を大きく左右します。風邪を引いて鼻が詰まると味が分からなくなるのは、嗅覚からの情報がOFCに届かなくなるためです。
- 触覚: 食べ物の温度や食感(テクスチャー)は、舌や口の中の感覚受容器から体性感覚野を経由してOFCに送られます。パリパリ、もちもち、とろけるといった食感は、味をより豊かにします。加えて、食べ物の品質や新鮮さの判断にも使われます。
- 聴覚: 食べ物を噛む音や咀嚼音は、聴覚野を経由してOFCに送られます。この音は、食べ物の硬さや新鮮さといった情報を補強します。そして、味の認識に影響を与えます。例えば、ポテトチップスの「パリパリ」音が小さいと、脳は「湿気ている」と判断します。そして、味の満足度が下がることになります。
まとめ
ここまで味は舌だけで決まるのではないということ五感での味覚の感じ方、心理的効果、脳と味覚の関係という視点から説明しました。脳が様々な情報を統合して「味」を認識しています。視覚は、色が味の期待値の操作、嗅覚は味覚の大部分は「香り」であること、聴覚は、音が食感や新鮮さを伝え、触覚は、舌触りや硬さが味の一部であることを説明しました。
そして、心理的効果については、聴覚による「味覚」操作、ブランド価値とリラックス、会話とプライベート空間の確保を説明しました。加えて、脳と味覚の関係として、脳機能と味の統合、味覚に影響を与える要因の脳機能的解釈について説明しました。その結果、味を感じるのに五感を駆使して感じていました。そして、味覚は一つの感覚ではなく、脳が複数の情報を統合して生み出す総合的な感覚ということを再認識しました。
私は、味を舌だけで感じるとは思っていませんでした。しかし、舌が中心的で他が補足という印象でした。しかし、実際には五感を駆使して味覚を感じていました。すると、TVで目隠しをして食べたメニューや食材が当てられないのにも納得がいきます。そして、視覚に重きをおいている人が苦戦しているような状況を把握することができました。無意識にこのようなことができているのは素晴らしいと再認識しました。


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