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夢が奇妙?

科学
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 夢を見ることがあります。通常の生活の延長のような夢もあります。ただし、その内容はしばしば現実離れして、論理が破綻していることも少なくありません。なぜ夢はあんなに奇妙な物語を紡ぎ出すのかという疑問が浮かびます。そして、夢の中の出来事をなぜ現実のように感じてしまうのかというのも疑問に浮かびます。この点について、疑問を解消するために調べました。

どうやって夢をみるのか?

 夢を見るメカニズムは完全に解明されているわけではありません。しかし、現在の脳科学研究では、主に睡眠の段階脳の特定の部位の活動神経伝達物質の役割、そして、記憶の整理プロセスが重要な要素として挙げられます。この点について、以下で説明します。

夢を見る主要なメカニズム

 夢のほとんどは、睡眠の段階の中でも特に「レム睡眠」中に見られると考えられています。レム睡眠(REM睡眠:Rapid Eye Movement Sleep)ただし、ノンレム睡眠中にも夢を見ることはあります。しかし、レム睡眠中の夢の方が鮮明で、物語性があり、記憶に残りやすい傾向があります。

 レム睡眠は、脳が非常に活発に活動している状態です。そして、この状態で身体の筋肉が弛緩しているという特徴があります。このユニークな状態が夢の生成に深く関わっていると考えられています。

レム睡眠中の脳の状態

  • 脳波の活性化: レム睡眠中は、覚醒時に近い速い脳波が見られます。これは、脳が活発に情報処理を行っていることを示しています。なお、覚醒時に近い速い脳波というのは、ベータ波やアルファ波に似た活動のことを指します。
  • 前頭前野の活動低下: 論理的思考、計画、判断などを司る前頭前野(Prefrontal Cortex)の活動があります。しかし、レム睡眠中には前頭前野の活動は著しく低下します。これが、夢が非論理的で矛盾に満ちている理由と考えられます。つまり、批判的な思考が抑制されるため、どんなに奇妙な出来事も夢の中では自然に受け入れられることになります。
  • 感情を司る領域の活性化: 扁桃体海馬帯状回などの領域がレム睡眠中に非常に活発になります。具体的領域は、感情を処理する扁桃体(Amygdala)があります。そして、記憶の形成に関わる部分に海馬(Hippocampus)があります。加えて、感情と記憶の統合に関わる部分に帯状回(Cingulate Cortex)があります。これらにより、夢は強い感情を伴うことが多く、感情的な内容が夢の主題となることがよくあります。
  • 視覚野・聴覚野の活性化: 夢の中で鮮やかなイメージや音を感じることがあります。この時は、視覚野や聴覚野といった感覚を処理する脳領域が活性化しているためです。そして、実際には外部からの視覚・聴覚入力がほとんどないにもかかわらず、脳が内部でこれらの感覚を生成していると考えられます。

神経伝達物質の役割

 レム睡眠中の脳の活動には、特定の神経伝達物質のバランスが重要です。

  • アセチルコリン: レム睡眠の開始と維持に重要な役割を果たすと考えられています。アセチルコリンは記憶や学習にも関与しています。そして、この物質の活性化が夢の鮮明さや物語性に関わっているとされます。
  • ノルアドレナリン・セロトニン: これらは通常、覚醒状態やノンレム睡眠中に活発です。しかし、レム睡眠中にはその活動が抑制されます。これらの神経伝達物質は論理的思考や現実の監視に関わっています。そのため、これらの活動の抑制が夢の非現実性を促進すると考えられています。
  • ドーパミン: 報酬系に関わるドーパミンも夢の生成に関与している可能性が示唆されています。これは、特に快感や目標達成に関連する夢と結びつくことがあります。

記憶の整理と統合(Mnemonic Role)

 夢は、日中の経験や記憶を整理し、固定する役割を担っているという説が有力です。

  • 情報の再構築: 睡眠中、脳は日中に経験した出来事や学習した情報を繰り返し再生し、整理します。この再構築の過程で、無関係な情報が結びついたりします。そして、新しい情報が古い記憶と統合されたりします。これが夢の奇妙な内容や、なぜ特定の出来事が繰り返し夢に現れるのかを説明する一助となります。
  • 感情の消化: 夢は、日中に処理しきれなかった感情やストレスを「消化」する場でもあります。脳は、感情的な出来事を安全な仮想空間である夢の中で再演します。これにより、その感情を乗り越えたり、あるいはその感情に慣れたりしようとします。

活性化-統合説 (Activation-Synthesis Theory)

 最も有力な夢の理論の一つに、ホーボンとマッカーリーが提唱した活性化-統合説があります。

  • この説では、レム睡眠中に脳幹からランダムに発せられる電気信号(活性化)があります。そして、この電気信号が脳の様々な高次領域(特に前頭前野以外)を刺激すると考えられています。
  • 刺激された脳は、これらのランダムな信号に意味を与えようと(統合)します。脳は、信号を既存の記憶、感情、知識と結びつけます。そして、最も意味のあるストーリーやイメージを紡ぎ出します。
  • この統合の過程が、夢の奇妙で断片的な性質を説明します。前頭前野の活動が低下しているため、統合は必ずしも論理的ではありません。そのため、矛盾や非現実的な要素が入り込むことになります。

非現実的な要素が含まれる理由

 夢は、私たちが起きている間に経験したこと、考えたこと、感じたことの断片あります。この断片が、睡眠中の脳内で再構成されることで生まれます。この再構成のプロセスが、夢の多様性を生み出します。

記憶の再構築と整理

  • 睡眠中、特にレム睡眠中に、脳は日中に収集した情報を整理します。そして、短期記憶から長期記憶へと移行させる作業を行います。この際、関連性の低い情報同士が結びついたり、古い記憶と新しい記憶が混ざり合ったりすることがあります。これが、夢の中で一見無関係な要素が組み合わさる理由になります。
  • 感情的に重要だった出来事や、印象に残った情報ほど夢に現れやすい傾向があります。しかし、それらが現実とは異なる文脈で現れることもあります。

感情の処理と表現

  • 夢は、日中に抑圧された感情や未解決の感情を処理する場としても機能します。脳は、これらの感情を象徴的に表現することがあります。そのために、奇妙な場面設定や比喩的なイメージを用いることがあります。例えば、不安は追われる夢、自由への渇望は空を飛ぶ夢として現れるかもしれません。
  • 感情が混ざり合うことで、現実にはありえないような状況が夢の中で生成されることがあります。

無意識の願望や恐れ

  • フロイトの精神分析学では、夢は無意識の願望や満たされていない欲求、あるいは恐れや不安が象徴的に表現されたものだと考えられています。これらの無意識の要素は、現実の論理とは異なる形で夢の中に現れることがあります。

ランダムな神経活動

  • 睡眠中、特にレム睡眠中は脳の活動が非常に活発になります。しかし、意識的な思考を司る前頭前野の活動は低下しています。これにより、脳の様々な部位がランダムに活性化します。そして、互いに無関係な情報が結びつけられることがあります。このランダムな結合が、非現実的な夢の源となります。

場面設定で現実にはありえない事がある理由

 現実にはありえないことが夢の中で起こるのは、主に以下の脳の活動状態が関与しています。

前頭前野の活動低下

  • 夢を見ているレム睡眠中、脳の前頭前野の活動が大幅に低下します。なお、前頭前野は、論理的思考や批判的思考、計画性などを司っています。このため、夢の中では現実世界ではすぐに気づくような矛盾や不合理な出来事に対しても、疑問を感じることなく受け入れてしまいます。
  • 現実との区別が曖昧になり、空を飛んだり、死んだ人が現れたり、身体が変形したりといった非現実的な出来事を、夢の中では自然なこととして経験します。

記憶の統合とエラー

  • 脳は、新しい記憶を固定する際に、既存の記憶と結びつけたり、再構築したりします。この過程で、情報の断片が誤って結合されたりします。また、過去の出来事と現在の情報がごちゃ混ぜになったりすることもあります。これが、夢の中で現実にはありえないような奇妙な組み合わせや状況が生まれる原因となります。
  • 例えば、知っている場所が実際とは異なる配置になっていたり、複数の人物が一人に統合されたりすることがあります。

感情的処理の優位性

  • 夢の中では、論理よりも感情が優位に立ちやすい傾向があります。恐怖や喜び、悲しみといった強い感情が、その感情に合った非現実的なシナリオを作り出すことがあります。例えば、極度の不安は、どんなに非現実的であっても、追われる夢として具現化されることがあります。

感覚情報の解釈と脳のシミュレーション

  • 睡眠中にも、外部からの刺激(音、匂い、体温など)や内部の身体感覚(消化器系の活動、呼吸など)が脳に送られることがあります。脳はこれらの曖昧な情報を、夢のストーリーに取り込んで意味づけようとします。この「意味づけ」の過程で、現実にはありえないような解釈や場面が作り出されることがあります。
  • 脳は、起きている間に経験した視覚や聴覚、触覚などの感覚情報を元に、仮想的な世界をシミュレーションしているとも考えられます。このシミュレーションが、現実の制約から解放されることで、自由な発想や非現実的な表現を可能にするのです。

まとめ

 夢は、次の状態で見やすいことを説明しました。それは、レム睡眠中に脳が非常に活発に活動し、特に感情や記憶に関わる領域が優位になります。その一方で、論理を司る領域の活動が低下することで生まれます。

 夢の内容は、このレム睡眠状態の中で、日中の経験や感情、記憶がランダムな神経信号と結びつきます。そして、脳がそれらをストーリーとして「意味づけよう」とします。その結果、多様で時に非現実的な夢が生成されると考えられています。

 つまり、夢は単なる幻想ではなく、脳が記憶を整理し、感情を処理し、学習を強化するための重要なプロセスの一部である可能性が高いのです。そして、この脳の状態が、私たちが現実では経験しえないような、自由で創造的な、時には支離滅裂な、夢の世界を生成することを可能にしていると考えられます。

 

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