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他人の失敗を笑ってしまうのはなぜ?

心理
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 悪気はないのに、「つまずいた人を見て、思わず笑ってしまった」ということがあります。もちろん、相手を傷つけたいわけではありません。それなのに「なんで笑っちゃったんだろう」と思います。そして、あとになってで少し罪悪感を覚えます。そんな経験、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。実はこの複雑な感情には、心理学で「シャーデンフロイデ」と呼ばれる深いメカニズムが隠されています。
 今回のブログでは、「他人の失敗を笑ってしまう」心理を、脳と社会心理の両面から読み解いていきます。以下になぜ他人の失敗を笑ってしまうのか、決して意地悪でなく、むしろ人間らしい自然な感情であること、そして、笑うという行為について説明します。

なぜ、他人の失敗を笑ってしまう

「他人の不幸は蜜の味」って本当?

 昔から「他人の不幸は蜜の味」と言われます。ドイツ語ではこの感情を「シャーデンフロイデ(Schadenfreude)」と呼び、「他人の失敗や不幸を見て、ちょっとした快感を覚える感情」と定義されています。「シャーデンフロイデ」はドイツ語で、「他人の不幸に対して感じる喜び」という意味です。この感情は決して珍しいものではありません。誰にでも自然に生じる“人間らしい反応”の一つです。心理学者たちは、これを「自己評価を守るための心の防衛反応」として位置づけています。この現象は文化を問わず存在し、心理学者が長年「なぜ人は他人の不幸で喜ぶのか?」を研究しています。

自分を守るための「安心反応」

 私たちは、他人と自分を常に無意識に比較しています。そして、誰かが成功すれば焦りや劣等感を覚え、失敗すれば「自分は大丈夫だ」と安心します。つまり、他人の失敗を見た時の“笑い”は、自分の立ち位置を確認し安心する反応でもあります。例えば、「あの人も間違えるんだ」、「完璧じゃないのは自分だけじゃない」などです。こうした無意識の“ホッとした気持ち”が、笑いという形で表に出ています。

比較から生まれる安心感

 私たちは、無意識のうちに他人と自分を比べています。たとえば、優秀な人が失敗した時、「自分にもまだチャンスがある」と感じることがあります。これは、「社会的比較理論」と呼ばれる心理メカニズムです。つまり、他人の失敗が一時的に自分の立場を上げたように感じさせます。そして、安心感や満足感をもたらします。

嫉妬と優越感のはざまで

 シャーデンフロイデの裏には、しばしば「嫉妬」の感情があります。自分より成功している人に対して、うらやましさや劣等感を抱くのは自然なことです。そして、その相手がつまずいたとき、一瞬だけその緊張がほぐれます。そして、「ほっとする」「少しうれしい」といった感情が湧きます。つまり、人の失敗を笑ってしまうのは“優越感”ではなく、むしろ“嫉妬の緊張からの解放”と考えることもできます。

「笑い」はストレスを和らげる仕組みでもある

 脳科学的には、笑いはストレス反応の緩和と関係しています。緊張や不安を感じたとき、笑うことで脳内のエンドルフィン(快楽物質)が分泌されます。そして、エンドルフィンの分泌で心が落ち着きます。例えば、テレビのバラエティ番組で、芸人が失敗して笑いが起こるのも同じ原理です。視聴者は“他人のミス”という緊張の瞬間を、笑うことで安心に変換しているのです。つまり、笑いは緊張を解くための自然な反応ということになります。

笑いの裏にある「社会的な学び」

 一方で、他人の失敗を笑うことには社会的な意味もあります。テレビ番組やコメディでは、失敗の場面が笑いを誘うことが多くあります。心理学では、これは「安全な失敗体験を共有することで、集団の安心感を高める」役割があると考えられています。つまり、笑いながら「失敗しても大丈夫」というメッセージを確認しているのです。

嫉妬や競争心の裏返しとしての笑い

 一方で、他人の失敗を笑う気持ちの中には、嫉妬や競争意識が隠れている場合もあります。心理学では、人は自分と似た立場の人(同僚、ライバルなど)の失敗により強いシャーデンフロイデを感じることが分かっています。たとえば、「いつも優秀な同僚がミスをした」、「SNSで人気の友人の投稿に批判コメントがついた」などです。

 そんなときに「ちょっとスッとした」気持ちが生まれるのは、「自分との差が縮まった」と脳が感じているからです。ただし、それは一時的な“自我の防衛”にすぎません。そのため、長く続くと自分の自己評価を他人に依存してしまうことになります。

「共感的笑い」もある

 すべての「他人の失敗を笑う」が悪い意味ではありません。実は、相手に共感して一緒に笑う「共感的笑い」という形もあります。たとえば友人が転んで照れ笑いをしたとき、「大丈夫?」と声をかけながら一緒に笑います。これは相手を責める笑いではなく、恥ずかしさを共有して和らげる笑いです。このような笑いは、むしろ人間関係を深める働きをします。

「笑う」ことと「共感する」ことのバランス

 大切なのは、笑いのあとに“共感”を取り戻すことです。他人の失敗を笑う感情を完全に消す必要はありません。しかし、その相手の立場を思いやる視点を忘れないことが重要になります。シャーデンフロイデは人間の自然な感情ですが、共感を持つことで“優しさに変わる笑い”になります。

他人の失敗を見たときに意識したいこと

 笑ってしまうこと自体は自然なことです。大切なのは、その後の態度です。まず、相手が本当に傷ついていないかを考えます。そして、一緒に笑って「大丈夫」と伝えられることができるかを考えます。加えて、その笑いが“共感”から出ているかということを考えます。この3つを意識するだけで、笑いは「人を傷つけるもの」ではなく、「人をつなぐもの」に変わります。

まとめ

 ここまで「他人の失敗を笑ってしまう」心理を、社会心理の両面から読み解きました。そして、「なぜ他人の失敗を笑ってしまうのか」、笑うという行為などについて説明しました。また、「他人の失敗を笑ってしまう」のは、人の心に備わった自然な防衛反応でした。他人と自分を比べることで一時的に安心を得たり、緊張を和らげたりする働きがありました。しかし、その感情を自覚し、共感を持って向き合うことで、他人の失敗を“笑い”ではなく“学び”に変えることができるものでした。

 また、次に「笑ってしまった」その瞬間、自分の中で何が起こったかを考えてみることをしてみようと思いました。そして、「いま自分は何に安心したんだろう?」と考えてみることが自分を客観的にみる1つの方法のような気がします。そこに、自分の心の奥にある“本当の気持ち”があるかもしれません。

 

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