「優しいお父さん」や「真面目な学生」だった人が、SNSでは別人のような攻撃性を見せる。そして、そんな光景を、私たちは日常的に目にしています。また、なぜ、あんなにひどいことが言えるんだろう?、自分はあんな風にはならないと思います。しかし、心理学的な視点で見ると、炎上を引き起こすのは特殊な悪人ではありません。つまり、「ごく普通の善良な人々」であることがわかっています。なぜ、SNSという場所は私たちの理性を奪い、群衆を暴走させてしまうのかという疑問が浮かびます。
今回、その裏側に隠された、恐ろしくも興味深い「群集心理」の正体について調べました。なお、近い内容に以前のブログ「なぜネットの議論は過激化しやすいのか?:サイバーカスケードと集団極性化」があります。興味のある場合は参照してください。
このブログでは、匿名性と「没個性化」の魔力、快感に変わる「正義の暴走」、SNSの構造が「怒り」を増幅させるについて以下に説明します。
匿名性と「没個性化」の魔力
なぜ、普段は穏やかな人がネット上では攻撃的になれるのか。その鍵は「自分が自分でなくなる感覚」にあります。
責任の希薄化
現実世界では、例えば「田中さん」という個人として発言します。しかし、ネットでは「匿名の一人」になります。そして、このとき、脳は「自分の発言」を「集団の声」の一部だと錯覚してしまいます。その結果、「私が言った」という責任感が薄れてしまいます。
「没個性化」のプロセス
集団の中に隠れると、人間は自分を律する基準(内省的自己意識)が低下します。そして、これを心理学で没個性化と呼びます。また、お祭りの騒ぎや、暗闇の中で気が大きくなるのと似た状態が、SNS上では常に起きているようなものです。
非人間化(Dehumanization)
相手の顔が見えず、アイコンと文字だけの存在になります。すると、脳は相手を「感情を持つ人間」として認識しづらくなります。そして、目の前に人がいるときには絶対に使わないような鋭い言葉を、平気で投げつけられるようになります。
快感に変わる「正義の暴走」
炎上参加者の多くは、悪意ではなく「善意」で動いています。そして、これが事態を最も悪化させる要因です。
利他的罰(Altruistic Punishment)
人間には「ルールを破った不届き者に罰を与えたい」という本能的な欲求があります。また、これは本来、社会の秩序を守るための機能ですが、SNSではこれが過剰に発動します。
脳内報酬系と「正義の中毒」
悪い奴を成敗していると感じる時、脳の報酬系からは快楽物質のドーパミンが放出されます。つまり「正義の行い」は、脳にとって最高の娯楽になってしまいます。
シャーデンフロイデの発生
自分より成功者の優位にいた人が引きずり下ろされるのを見て、密かな喜びを感じる心理です。つまり、正義を振りかざして、「他人の不幸」を正当に楽しむ免罪符を手に入れてしまうわけです。
SNSの構造が「怒り」を増幅させる
個人の心理だけでなく、SNSの「仕組み」そのものが炎上を加速する要因になっています。
エコーチェンバーとフィルターバブル
アルゴリズムは、あなたが「関心がある(=怒りを感じやすい)」情報を優先的に表示します。そして、同じ意見の人ばかりが周囲に集まります。その結果、「自分の正義は100%正しい」「反対意見は悪だ」という思い込みが加速します。
「怒り」の伝染スピード
研究によれば、SNS上で最も拡散されやすい感情は「怒り」であることがわかっています。つまり、悲しみや喜びよりも、怒りは生存本能に直結することになります。そして、そのため、脊髄反射的に「リポスト(共有)」を促す力を持っています。
| 構造的要因 | 心理的影響 | 炎上への影響 |
| 可視化された数字 | 「いいね」が欲しい欲求 | より過激な批判で注目を浴びようとする。 |
| 文脈の欠如 | 誤解の発生 | 140文字程度の断片的な情報が、最悪の解釈で広まる。 |
| 常時接続 | 冷却期間の喪失 | 冷静になる前に、怒りのピークで発信してしまう。 |
その他
SNSでの誹謗中傷は、名誉毀損罪(3年以下の拘禁刑や50万円以下の罰金)や侮辱罪(厳罰化により厳しく対処)などに問われる犯罪行為です。また、民事上も「不法行為」に該当し、損害賠償や慰謝料請求の対象となり、匿名でも発信者情報開示命令により特定され、法的な責任を追及される可能性があります。
まとめ
ここまでこのブログでは、匿名性と「没個性化」の魔力、快感に変わる「正義の暴走」、SNSの構造が「怒り」を増幅させるについて説明しました。まず、匿名性と「没個性化」の魔力について、責任の希薄化、「没個性化」のプロセス、非人間化を説明しました。次に、快感に変わる「正義の暴走」について、利他的罰、脳内報酬系と「正義の中毒」、シャーデンフロイデの発生を説明しました。最後に、SNSの構造が「怒り」を増幅させるについて、エコーチェンバーとフィルターバブル、「怒り」の伝染スピードを説明しました。
これらの原因には、ネット環境で集団内の「匿名の一人」になることによる責任の希薄化、集団内に隠れることによる「没個性化」、相手の顔が見えずアイコンと文字だけでの非人間化などが要因がありました。これらは相手を人間として思いやることをなくすようなものであると感じました。そして、このような環境が炎上を起こしそうな状況になりそうなことが想像できました。
また、炎上は脳が持つ「集団への帰属意識」や「正義感」が、SNSという特殊な環境でバグを起こした結果とも言えます。つまり、誰しもが加害者になる可能性を秘めているような気がします。また、大切なのは、画面の向こう側にいるのも、自分と同じように悩み、傷つく「生身の人間」であることを忘れないことになります。まず、投稿する前に、3秒だけ指を止める。そして、「これは正義感か、それともただのストレス発散か?」と自分に問うことが必要だと感じました。


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