私たちは日常の中で、無意識に「仲間」と「よそ者」を分けています。それは、スポーツチームの応援、会社の部署、地域コミュニティなどがあります。そして、社会のニュースを見ていると、国同士の対立、地域コミュニティの団結など、「私たち」と「彼ら」の構図が繰り返し現れます。また、なぜ人はここまでグループにこだわるのかが疑問に残るところです。
また、心理学には社会的アイデンティティ理論という考え方があります。これは、自分をどう捉えるかは、個人だけでなく所属する集団によっても形づくられます。そして、この理論を通して「私たち意識」がどのように生まれ、日常の人間関係や社会現象にどう影響しているのかに注目します。
今回このブログでは、集団への所属に注目し、社会的アイデンティティ理論がどのようなものか、そして、現代社会への応用例について説明します。
社会的アイデンティティ理論の基本
主にイギリスの2人の社会心理学者によって社会的アイデンティティ理論は提唱されました。そして、その2人は、ヘンリー・タジフェルとジョン・ターナーです。
理論の核心:自己概念の二重性
この理論は、自己概念、つまり、自分とは何者かという認識に関するものです。この理論では個人的、社会的アイデンティティの二つの要素から成り立っていると考えています。そして、今回注目するのは、後者の「社会的アイデンティティ」です。これが私たちの行動を決定する際に果たす役割が重要になります。
- 個人的アイデンティティ(Personal Identity):
- 自分自身の個人的な特徴に基づく認識です。例えば、「私は親切だ」「私は読書が好きだ」などです。
- 社会的アイデンティティ(Social Identity):
- 自分が所属する集団に基づく認識です。例えば、「私は日本人だ」「私は〇〇大学の学生だ」などです。
集団化のプロセス:内集団と外集団
私たちは、自分の社会的アイデンティティを高め、自尊心を維持しようとします。そして、そのために、無意識のうちに以下のプロセスを実行します。
A. 社会的分類(Social Categorization)
私たちは、まず世界を「内集団(In-group)」と「外集団(Out-group)」に分類します。そして、内集団が自分たちが属する集団で、外集団が自分たちが属さない集団になります。
B. 社会的比較(Social Comparison)
次に、自分たちの内集団を、外集団よりも優れていると認識しようとします。これは自分の「社会的アイデンティティ」をポジティブに評価し、自尊心を高めるための本能的なプロセスです。
C. ポジティブな差異化(Positive Distinctiveness)
この比較の結果、内集団の有利な点を誇張したりします。そして、外集団の不利な点を強調したりします。これにより、内集団が外集団に対して良い意味で「区別できる」状態を作り出します。
最小集団パラダイム
この理論の証拠となったのが、タジフェルの「最小集団パラダイム」と呼ばれる実験です。この実験は、次の驚くべき事実を証明しました。まず、何の理由もない集団を作りました。そして、その内集団への所属意識だけで、内集団を優遇し外集団を差別することを示しました。
- 実験概要: 被験者を、全く意味のない、ランダムな基準で二つのグループに分けます。そして、お互いの顔も知らず、何の交流もありません。例えば、適当に描かれた絵を『上手』としたグループ対『下手』としたグループです。
- 結果: 被験者は、自分の集団に外集団のメンバーより多くの報酬や好意を与えようとしました。
現代社会への応用例
1. 政治的・社会的「分断」のメカニズム
社会的アイデンティティ理論は、社会的な対立がなぜ解消しにくいのかについて説明します。
- 内集団の極端化: 政治的な信条などで自分と同意見の集団にアイデンティティを強化します。例えば、政治的な信条などというのは、保守派とリベラル派や環境問題などです。
- 外集団の悪魔化: 自分のアイデンティティ(信条)を優位にするようにします。そのため、反対意見を持つ集団を「間違っている」「非倫理的だ」と極端にネガティブに捉えます。そして、ポジティブな差異化を図ろうとします。これが、建設的な議論を困難にし、社会的な分断を深める原因となります。
- 事例: 政治的なSNSグループなどでの相手陣営への過激な攻撃があります。または、フェイクニュースの拡散で内集団の視点を強化し、外集団を貶めるがあります。
2. スポーツやファンコミュニティの熱狂
スポーツやエンターテイメントは、社会的アイデンティティ理論の現象が強く現れる一つです。
- 無関係な成功の喜び: 自分は何も貢献していなくても、応援するチームが勝ちます。すると、「自分の成功」のように感じ、自尊心が高まります。そして、これをBIRGing(バーギング)現象と呼びます。
- 外集団への敵意: 相手のチームに個人的感情がなくても集団の勝利のために敵対視します。そして、罵倒や敵意を示すこともあります。これは、「内集団を優位に保つ」という社会的比較の結果です。
3. 職場や組織における集団対立
企業や組織内でも、部署間やチーム間で「内集団 vs 外集団」の構造が生まれます。
- 部署間の非協力: 営業部と開発部、本社と支社など、異なる部門で起きます。つまり、「私たちの部署が一番重要だ」という意識を持ちます。そして、その結果情報の共有を拒んだり、相手の成果を軽視したりするようになります。
- 「組織文化」の形成: 従業員が企業のロゴや社風に強い誇りを持ちます。(社会的アイデンティティの共有)これにより、忠誠心が高まり、離職率が低下するなどのポジティブな効果も生まれます。
4. 匿名性の高いインターネットコミュニティ
インターネットの匿名性は、集団の力学を増幅させます。
- オンライン・ハラスメント: 匿名性の高いSNSでは、特定の集団に対する集団的な攻撃や炎上が起こりやすくなります。これは、攻撃者が「自分たちは正義の集団にいる」と感じます。そして、個人の倫理観よりも集団の規範に従って行動しやすくなるためです。
- 事例: 特定の「荒らし」行為を行う集団が、集団内でアイデンティティを共有します。その結果、その行為自体を正当化し、エスカレートさせていく現象があります。
まとめ
ここまで集団への所属に注目し、社会的アイデンティティ理論、そして、現代社会への応用例について説明しました。まず、社会的アイデンティティ理論の基本について、自己概念の二重性、内集団と外集団、最小集団パラダイムから説明しました。次に、現代社会への応用例として、政治的・社会的「分断」のメカニズム、スポーツやファンコミュニティの熱狂、 職場や組織における集団対立、匿名性の高いインターネットコミュニティについて説明しました。
この内容を調べてみて、日本に昔からある「村社会」が思い浮かびました。そして、なんだか日本、外国に関わらず昔からあったものであるということなのかと思いました。また、現在のSNSにまで至っているような気がしました。社会的アイデンティティの強度は個人個人で異なるような気がします。そして、問題となる行動をするか否かは個人の理性にも強く依存しているのではないかと感じました。


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