「赤信号、みんなで渡れば怖くない。」このような言葉を聞いたことがあります。まず、一人の場合は、ほとんど信号を守り赤信号を渡ることはありません。ただし、横断歩道が短く、車が全く通っていない場合は渡る人はいるかもしれません。しかし、大人数、「みんな」になったら赤信号を渡る確率が高くなるような気がします。そして、このような一人なら選ばないのに…『みんなで決める』とリスクが高まる心理現象があるらしいです。また、「会議の決定は大胆になる」ともいわれているようです。そして、この集団心理『リスキーシフト』と言います。
このブログでは、みんなで決めるとリスクが高まるリスキーシフトについて取り上げます。ここでは、どのようなものか、日常やビジネスへの影響、その対策について調べました。以下にこれらの内容について説明します
リスキーシフトとは何か?
定義
リスキーシフトとは、集団で討論・合意形成を行った決定結果に関するものです。その決定が、討議前のメンバー個人の平均的な決定より、よりリスクを許容したものになる現象です。簡単に言えば、みんなで話し合ったら一人で決めるより大胆な選択肢を選んでしまう状態です。
心理学上の位置づけ
この現象は当初、集団討議が集団全体の決定をよりリスキーな方向にシフトさせる。このような、集団極性化(Group Polarization)の一種として注目されました。しかし、その後の研究で、集団討議の結果は必ずしもリスキーになるばかりではありませんでした。それは、もともと慎重(保守的)な傾向が強かった集団では、さらに慎重な方向へシフトする。つまり、コーシャスシフト (Cautious Shift)も確認されました。 そのため、現在ではリスキーシフトは集団極性化を構成する要素の一つとして理解されています。集団極性化とは、「集団で話し合うと、個々人の初期の傾向が、その方向により極端に強調される」という現象全般を指します。
リスキーシフトが発生するメカニズム
リスキーシフトがなぜ起こるのかについては、主に以下の2つの理論で説明されています。
責任の分散(Diffusion of Responsibility)
- 集団で決定を下します。そして、もしその決定が失敗に終わったとしても、責任が集団全体に分散されます。そのため、個人でリスクを負うことへのプレッシャーが軽減されます。
- 個人が感じる「失敗の痛み」が和らぎます。そのため、大胆な選択をしやすくなります。
- 決定が失敗しても「みんなで決めたこと」になります。そのため、個人的な責任感が薄れます。
- 「失敗しても自分一人のせいではない」という安心感があります。そして、大胆な選択を後押します。
文化的な価値(Cultural Value / リーダーシップの競争)
- 多くの文化において、「勇敢さ」や「大胆さ」はポジティブな価値として評価されやすい傾向があります。
- 集団討議の場で、メンバーは他のメンバーよりも少しでも大胆な意見を提示します。これにより、集団内でのリーダーシップや影響力を示そうとします。
- 特に、リスクを避けるよりは、ある程度の成功が見込めるリスクを取る方が望ましいという文化的な規範がある場合に、この傾向が強まります。
- 多くの社会で「勇敢さ」「挑戦」が肯定的に評価される傾向があります。
- 集団討議の中で、メンバーは「臆病者と思われたくない」「リーダーシップを示したい」心理が働きます。それにより、他のメンバーより少しだけ大胆な意見を表明しようします。そして、その結果、全体の意見がリスク方向に引っ張られます。
日常とビジネスに潜むリスキーシフト
この現象が現実世界でどんな影響を及ぼしているかを具体的に示します。
- ビジネスシーンでの例:
- 経営会議での無謀な新規事業への参入や、リスクの高い投資の決定がされます。
- 役員会や経営会議など、集団での意思決定の場で起きます。それは、個人では承認しない大規模でリスクの高い投資や無謀なM&Aなどがされてしいます。
- 新商品の企画会議で、誰もが「これは売れない」と思っています。しかし、場の勢いや責任逃れから反対意見が出にくい状況になります。
- 集団討議の結果、個人が望まない攻撃的で強硬な政策や軍事作戦が採用されやすくなります。
- 日常生活での例:
- 友人グループでの危険な遊びや賭け事への同意がなされます。
- 匿名性の高いインターネット掲示板などでの、過激な意見への同調があります。そして、これは集団極性化全般の例としても使えます。
- SNSなどの集団内でのやり取りがあったとします。このやり取りが、ギャンブルや投機的な投資への関心や実行のハードルが下げます。
リスキーシフトを防ぐための対策
リスキーシフトを理解することは、会議やチームでの意思決定を行う際に、集団の力学に流されず、慎重にリスクを評価することの重要性を示しています。そして、この心理現象を認識した上で対応するのに以下のような対策があります。
- 対策①:匿名での意見表明の活用
- 会議の冒頭で、匿名で個人の意見(リスク許容度)を事前に集めます。これにより、集団の圧力によるバイアスを避けます。
- 対策②:悪魔の代弁者(デビルズアドボケート)の任命
- 集団の決定をあえて否定します。そして、反対意見やリスクを徹底的に洗い出す役割のメンバーを意図的に設定します。
- 対策③:責任の所在の明確化
- 「みんなの決定」ではなく、「最終的な決定責任者は誰か」を明確にします。そして、これにより、責任の分散を抑制します。
- 対策④:ファシリテーターの任命
- 中立的な立場から議論を促進し、相互理解や合意形成を支援を担う人を設定します。この人が議論を整理し、偏りを防ぎます。
- 対策⑤:データやリスク分析
- 客観的視点のデータ解析やリスク分析を導入して、感情的な判断を抑えます。
まとめ
ここまで、みんなで決めるとリスクが高まるリスキーシフトについて取り上げ、リスキーシフトがどのようなものか、日常やビジネスへの影響、その対策について説明しました。また、集団での決定が、討議前のメンバー個人の平均的な決定より、よりリスクを許容したものになる現象でした。そして、リスキーシフトが発生するメカニズムには、責任分散、文化的な価値がありました。
また、リスキーシフトは誰もが陥る可能性がある現象でした。私はこれまでリスキーシフトを意識したことがありませんでした。それゆえ、集団での決定の際には集団の力学を意識することの重要であると感じました。


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