「バレーボールをやっている人は背が高い」と思ってしまう。また、「セルフレジで戸惑うお年寄りを見て操作がわからないのだろう」と考えてしまう。つまり、バレーボールプレーヤーが高身長、セルフレジで戸惑うお年寄りで操作方法がわからないというような決めつけをしていることがあります。これは、過去に知っている情報を代表として、同様な状況では同じことが起きているという判断をしてしまっています。このような状況を代表性ヒューリスティック(representativeness heuristic)と呼びます。これは、脳の処理の効率化での思い込みという点で以前のブログのステレオタイプって?などと関連があります。
このブログでは、代表的ヒューリスティックがどのようなものか?、典型的な例、脳との関係について調べたので説明します。
代表性ヒューリスティックとは?
人は複雑な判断をするときに、厳密なデータや確率を計算することがあります。しかし、その代わりに「いかにもそれっぽい」という直感を使ってしまうことがあります。この “それっぽさ” に基づいて判断してしまう思考の近道が、代表性ヒューリスティックです。そして、特定の情報に頼りすぎることで、実際には考慮すべき確率や他の情報を見落としてしまう認知バイアスです。
典型的な例
コイン投げの例
サイコロで、「同じ数字が3回出る」よりも「違う数字が3回出る」方が確率が高いと思い込むことなどが挙げられます。ここでは、コインを6回投げた例を示します。
- 「表・裏・表・裏・表・裏」と並んだ結果は“いかにもランダムっぽい”と感じる。
- 「表・表・表・表・表・表」と並ぶ結果は“不自然で出にくそう”と感じる。
結論: 上記の2条件とも確率的にはどちらも同じです(1/64)。
リンダ問題(有名な心理学実験)
「リンダは31歳で、独身。とても聡明で率直。大学では哲学を専攻し、社会正義に関心を持ち、反核デモにも参加していた」→ この説明の後に次の2択を出します。すると、多くの人が誤ります。
A. リンダは銀行員である。
B. リンダは銀行員であり、かつフェミニスト運動に参加している。
多くの人は B を選びます。しかし、実際は A の方が確率的に高くなります。これは「リンダの人物像が“フェミニストっぽい”」ため、確率よりも代表性に引きずられてしまうからです。
ステレオタイプ判断
実際にはその人がどんな職業かは分からないのに、いかにもという印象で判断してしまいます。
・眼鏡をかけて本を読んでいる →「理系研究者っぽい」
・スポーツウェア姿で筋肉質 →「体育会系っぽい」
日常生活への影響
投資 :ある企業が急成長中だと「将来も伸びそう」と感じて過大評価してしまう。
医療 :症状が典型例に似ていると、別の可能性を見逃してしまう。
人間関係:「優しそうな見た目」=「信用できる人」と思い込んでしまう。
代表性ヒューリスティックと脳の関係
代表性ヒューリスティックは、脳の「効率化戦略」によるものです。このため、確率論よりも印象的な特徴に引っ張られやすくなります。また、脳は常に莫大な情報を処理しています。そのため、「直感的なショートカット」を使うことで素早く結論を出すようにします。また、前頭前野は論理的に確率を考えます。しかし、扁桃体や側頭葉は「パターンの一致」や「わかりやすいイメージ」を優先します。この扁桃体や側頭葉が優先されることで代表性ヒューリスティックが用いられます。
脳の思考
代表性ヒューリスティックは、人間の物事判断時に、脳のエネルギーを節約する効率的な思考プロセスとして働きます。このプロセスは、複雑な情報をすべて論理的に分析はしません。つまり、過去の経験や典型的なイメージに基づいた「直感」や「近道」を使います。また、素早く判断しようとする脳の特性と深く関連しています。つまり、これらの判断については、速い思考のシステム1思考がもちられています。ただし、思考には、この速い思考の他に遅い思考のシステム2思考があります。この2つの思考について説明します。
システム1思考とシステム2思考
システム1思考
直感的、無意識的、自動的な思考プロセスです。このシステムは、脳への負担を最小限に抑え、素早く意思決定を行うために働きます。代表性ヒューリスティックはこのシステム1が引き起こす認知バイアスの一種です。そして、典型的な例やステレオタイプに当てはめて物事を判断します。
たとえば、「スポーツ選手は背が高い」という典型的なイメージがあるとします。目の前の背の高い人を無意識にバスケットボールやバレーボールの選手だと判断しがちです。そして、この素早い判断は、日常生活での多くの場面で役立ちます。しかし、必ずしも論理的に正しいとは限りません。
システム2思考
論理的、意識的、努力的な思考プロセスです。システム1で処理できない複雑な問題や、より正確な判断が求められる場合に働きます。つまり、このシステムは、情報を注意深く分析し、論理的な推論に基づいて意思決定を行います。
代表性ヒューリスティックによる判断の誤りに気づいたとします。その場合、システム2が介入して論理的に考え直します。そして、これでより正確な結論を導き出すことができます。しかし、このシステムは多くのエネルギーを必要とします。そのため、常に作動させるわけではありません。
脳機能との関連性
代表性ヒューリスティックは、脳が持つ「省エネ」機能の表れと言えます。私たちの脳は、日々膨大な量の情報に直面しています。そのため、そのすべてをシステム2で処理することは非効率的で、疲れ果ててしまいます。そのため、脳はシステム1を優先的、パターン認識や過去の経験から素早く答えを導きます。
この機能は、生存に必要な素早い判断(危険回避など)に役立ってきました。しかし、一方で、現代社会の複雑な問題に対しては誤った判断につながることがあります。代表性ヒューリスティックの判断ミスは、脳が「最もらしい答え」を効率よく出した結果です。そして、これは脳の基本的な働きとして理解されています。
脳内での処理
代表性ヒューリスティックは、特定の脳の部位が単独で働いているのではありません。脳の複数の部位が連携して機能することで生じると考えられています。
大脳基底核 (Basal Ganglia)
代表性ヒューリスティックの根源となる直感的な判断に深く関与していると考えられています。そして、習慣的な行動やパターン認識、過去の経験から素早く結論を導く機能を持っています。例えば、将棋のプロ棋士が複雑な局面で一瞬のうちに最善手を思いつく「直感」です。この直観は、大脳基底核の活動が活発になることが示唆されています。これは、膨大な経験がパターンとして蓄積され、無意識に判断を下すことを可能にしています。
大脳皮質 (Cerebral Cortex)
論理的思考や抽象的な思考、ワーキングメモリに関わる部位です。代表性ヒューリスティックによる素早い判断が下された後、その判断が本当に正しいのかを論理的に検証したり、より複雑な問題に適用したりする際に働きます。特に、前頭前野は、認知バイアスを抑制し、より客観的な判断を下す役割を担っています。代表性ヒューリスティックがもたらす認知的な近道に対し、大脳皮質は「システム2」思考として、意識的な修正プロセスを担うと言えます。
脳の連携
代表性ヒューリスティックは、単一の脳部位の機能というより、大脳基底核が蓄積されたパターンに基づいて素早く直感的な判断を下し、その判断を大脳皮質が論理的に評価するという、2つの思考システム間の連携によって成り立っています。このプロセスは、脳がエネルギーを節約し、効率的に意思決定を行うためのメカニズムであり、私たちが日常的に直感と論理を使い分ける際の脳の働きを説明しています。
まとめ
ここでは代表性ヒューリスティックがどのようなものか?、典型的な例、脳との関係について調べたので説明しました。そして、代表性ヒューリスティックが、「いかにもそれっぽい」情報に引きずられて、実際の確率や論理を無視してしまう心理的近道ということも説明しました。しかし、私たちの脳は効率化のためにこの仕組みを使っていますが、ときに誤った判断を招いてしまいます。また、このヒューリスティックが行われているときの脳内の処理についても説明しました。そこでは、前頭前野よりも扁桃体や側頭葉が優先されるとこのヒューリスティックの判断がおこなわれています。
調べてみてヒューリスティックにもいろいろあることがわかりました。しかし、誤った判断をしてしまう可能性があるので知って注意する必要があると感じました。また、これまで感情ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、今回の代表性ヒューリスティックについてブログを書いてきました。他にも、希少性ヒューリスティック、利用可能性ヒューリスティックがあり今後ブログに記載する予定です。


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