何かのタイミングでふと昔のことを思い出すことがあります。また、散歩している時に、解決策が思いついたなどがあります。そこで、なぜ、忘れたと思ったことをふとした瞬間に思い出すということが気になり調べることにしました。
このブログでは、思い出すことのカギとなる記憶、なぜふとした瞬間に思い出すか、脳が記憶を思い出すメカニズムについて説明しています。
記憶について
記憶をパソコンの記憶装置のように「脳の中にある引き出し」のように考えがちです。そして、忘れた記憶は、その引き出しの奥にしまわれてしまい、見つけられないものと考えてしまいます。しかし、最新の脳科学や心理学では、記憶は「神経細胞のネットワーク」によって形成されていると考えられています。
つまり、特定の記憶は、ある特定の神経細胞の集まりが結びつくことで生じます。例えば、「A」という記憶と、「B」という記憶が独立して存在するのではありません。つまり、「A」と「B」が互いに強く結びついている状態で存在している。もしくは、複数の記憶が複雑に絡み合った状態として存在します。そして、このネットワークのどこか一箇所でも刺激を受けると、その情報がネットワーク全体に伝わります。そして、関連する記憶全体が活性化されることになります。
なぜ「ふとした瞬間」に思い出すのか?
この「ネットワーク」の考え方を踏まえると、忘れていたことを思い出す瞬間の不思議さを解き明かすことができます。
連想(Association)によるアクセス
忘れていた記憶を直接呼び出すことは難し状態であることがあります。しかし、その記憶と関連性の高い別情報に触れ、ネットワークで記憶全体にアクセスできます。これを連想と呼びます。
例えば、中学時代の出来事を忘れていたとします。しかし、たまたまその頃流行っていた曲を耳にしたとします。その曲(情報A)が、当時の記憶ネットワーク(情報B、C、D…)の入り口となります。そして、一気にすべての記憶が蘇ります。匂い、場所、言葉、感情など、さまざまなものが連想の引き金になりえます。
注意力と潜在意識
人は常に膨大な情報にさらされていますが、意識的に処理できる情報には限界があります。この意識的な処理の背後では、脳が膨大な情報を無意識のうちに潜在意識に蓄積しています。
何か別のことに集中している時、あるいはぼーっとしている時(散歩中やシャワー中など)、脳はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という回路が活発になります。意識が特定のタスクに縛られていないため、潜在意識下の情報が自由につながりやすくなります。普段は意識のフィルターで遮断される記憶が、この隙間に入り込み、ふと表面に現れます。
感情のトリガー
特に強烈な感情を伴う記憶は、他の記憶よりも強く定着しやすいと言われています。ポジティブな感情(喜び)もネガティブな感情(悲しみ、怒り)も、記憶の定着を促進します。
そのため、何かの出来事によって当時の感情が呼び起こされる。すると、それに強く結びついた記憶もセットで鮮明に蘇ることがあります。
脳が記憶を思い出すメカニズム
連想(Association)によるアクセス
脳は、直接的に特定の記憶を探すのが苦手です。しかし、間接的な手がかり(コンテキスト・キュー)を使って、記憶ネットワーク全体を活性化させることができます。
場所のトリガー: 久しぶりに訪れた場所の風景や雰囲気が、その場所で経験した出来事を思い出すきっかけになります。場所の記憶は、出来事の記憶と強く結びついています。
五感のトリガー: 特定の匂いを嗅ぐ、音楽を聴くなどで、その情報が過去の記憶と結びつきます。そして、忘れていた出来事を鮮明に思い出させます。これは、嗅覚や聴覚の情報が、記憶を司る海馬に直接的にアクセスするためです。
注意力の分散とデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活性化
私たちが何か特定のことに集中している時、脳の前頭前野が活発に働いています。しかし、ぼーっとしている時や、単純な作業をしている時には、この集中力が途切れます。具体的には、シャワーを浴びている、散歩をしている、運転しているなどです。
この時、内省や記憶の検索に関わるデフォルト・モード・ネットワークが活発になります。DMNは、脳が特定のタスクに縛られない時に、自由に記憶のネットワークをさまよいます。そして、普段は意識に上らないような潜在的な情報を表面に引き上げます。これが、ふとした瞬間にひらめく現象や、忘れていたことを突然思い出す現象の正体です。
感情と記憶の結びつき
脳の記憶システムは、感情を司る扁桃体と密接に関係しています。強い感情を伴う出来事(喜び、悲しみ、怒りなど)は、そうでない出来事よりも、脳に強く刻まれます。そのため、何かのきっかけで当時の感情の想起され、結びついた記憶もセットで鮮明に蘇ることがあります。
これらの脳機能が、忘れていたことをふと思い出すという事を引き起こしています。そして、これが日常の不思議な体験になっています。
潜在意識と連想
日常生活で意識的な情報処理をする一方、多くの情報が無意識、潜在意識に蓄えられています。
連想の働き: 忘れていた記憶がふと思出されるのは、潜在意識の記憶の引き金となるためです。引き金は、五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる)や特定の状況です。たとえば、昔聴いた曲を耳にした時です。このような時、その曲を聴いた頃の情景や感情が鮮明に蘇ることがあります。これは、曲という情報が潜在意識にある記憶と結びつきます。そして、連想によって意識の表面に引き出された例になります。
記憶の再活性化
時間が経つにつれて、記憶は薄れていきます。しかし、記憶が完全に消えるわけではありません。
フラッシュバック: 強い感情を伴う出来事の記憶は、何かのきっかけで突然、まるでその場にいるかのように鮮やかに蘇ることがあります。これは、感情が記憶をより強く定着させるためと考えられています。
コンテキスト・キュー(文脈の手がかり): ある記憶を覚えた時の状況や環境が、記憶を引き出す文脈の手がかりとなります。例えば、昔住んでいた街を久しぶりに訪れた時です。その場所の風景や匂いが、過去の出来事を思い出すきっかけになります。
思考の巡り
ぼーっとしている時や、何かに集中している時に、不意に忘れていたことを思い出すことがあります。
デフォルト・モード・ネットワーク(DMM): 脳が意図的活動でない時に活発になる神経回路です。このDMNが活発になると、過去の出来事を思い出したり、未来を想像したりするような、内省的な思考が促されます。具体的には、シャワーを浴びている時や散歩をしている時などです。そして、このようなリラックス時にアイデアがひらめく、忘れていたことを思い出したりします。この現象は、このDMNが関係していると言われています。
まとめ
ここまで忘れたと思ったことをふとした瞬間に思い出すのはなぜ?について、思い出すことのカギとなる記憶、なぜふとした瞬間に思い出すか、脳が記憶を思い出すメカニズムについて説明しました。そして、なぜ「ふとした瞬間」に思い出すのか?については、連想によるアクセス、注意力と潜在意識、感情のトリガーを説明しました。また、脳が記憶を思い出すメカニズムとして、連想によるアクセス、注意力の分散とデフォルト・モード・ネットワークの活性化、感情と記憶の結びつき、潜在意識と連想、記憶の再活性化、思考の巡りについて説明しました。
調べてみてなるほどと腑に落ちたのは、デフォルト・モード・ネットワークです。このDMNがぼんやり、ゆったりしている時に活性化していることです。このような時にDMN活性化していることで、ひらめき、思いつきがあるということは、このような時間をつくることが必要であると感じました。つまり、やることをやって、散歩をするなどゆっくりした時間の重要性を感じました。


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