PR

プラセボ効果って?

認知科学
スポンサーリンク

 「思い込み」ブログを書いた時に、プラセボ効果(プラシーボ効果)という言葉がでました。気になっていましたので今回取り上げました。なお、このプラセボ効果のプラセボ偽薬(ぎやく)のことを示しています。そして、プラセボ効果は、有効成分が一切含まれていない「偽薬(ぎやく)」を服用した時に使われます。また、本来は医学的な効果がない処置をした場合も含まれるようです。このような効果がない処置にもかかわらず、病気の症状が改善したり、あるいは副作用が出現する現象を指します。

 簡単に言うと、「薬を飲んだ」という思い込みや、治療に対する期待感、医療者への信頼などが、実際に身体に生理的な変化を引き起こし、症状の改善につながる現象です。なお、本来は医学的な効果がない処置の一例を示します。例えば、子供が怪我をした時に「痛いの痛いの飛んでいけー」などです。これにより痛みが和らぐことの現象です。以下どういうプラセボ効果に関する試験があるを説明します。加えて、試験結果の使われ方についても説明します。

試験の種類方法について

プラセボ対照試験(Placebo-Controlled Trial)

 医薬品の臨床試験においてプラセボは、新薬の真の有効性と安全性を客観的かつ科学的に評価するために不可欠なツールです。特に「プラセボ効果」という心理的・生理的な影響を排除します。そして、純粋な薬の作用を測定する上で重要な役割を担います。まず、ここで説明するのは、最も一般的なプラセボの使い方の「プラセボ対照試験」です。

目的

  • プラセボ効果の排除: 薬を服用することによる心理的・生理的な改善効果を明確にする。そして、薬自体の薬理作用による効果を区別する。
  • 自然経過の把握: 病気の症状が自然に改善する(自然寛解)場合がある。そのため、その自然な変化と薬の効果を区別する。
  • バイアスの低減: 医師や患者の思い込み、期待などが試験結果に影響する。この影響を与える「バイアス」を最小限にする。

方法

被験者のランダム化

 臨床試験に参加する被験者(患者さん)を、コンピューターなどを用いて無作為に2つ以上のグループに分けます。

  • 治験薬群(実薬群): 開発中の新薬を服用するグループ。
  • プラセボ群: 新薬と見た目、味、においなどがそっくりですが、有効成分を一切含まないプラセボを服用するグループ。
盲検化
  • 単盲検 (Single-blind): 被験者だけが、自分の所属がどちらのグループに属している知らない。グループとは、新薬グループに所属するかプラセボグループに所属課を示します。
  • 二重盲検 (Double-blind): 被験者だけでなく、試験を行う医師や研究者も、グループを知らない。つまり、どの被験者が新薬を服用しているか、どの被験者がプラセボを服用しているかを知らない。これが最も客観性の高い試験方法とされています。
効果の比較

 一定期間、それぞれの薬を服用を続けます。その後、両グループの症状の変化、検査数値、副作用の発生率などを比較します。そして、新薬群の改善度がプラセボ群の改善度よりも統計学的な有意を確認する。有意差が確認されれば、その新薬にはプラセボ効果を超えた真の薬効があると判断されます。

プラセボの特性(偽薬はどういうものか)

  • 見た目(色、形、大きさ)、味、におい、重さなど、物理的特性を可能な限り治験薬と同一に作られます。これは盲検性を保つために非常に重要です。
  • デンプンや乳糖などの不活性成分で作られます。

アクティブプラセボ (Active Placebo)

  副作用のある既存薬をプラセボとして使用する方法にアクティブプラセボがあります。

  • 目的: 治験薬の副作用には、単なる薬を服用したことによる心理的な反応(ノセボ効果)があります。そして、それとも薬理作用によるものがあります。この2つをより厳密に区別するためにおこないます。
  • 例: 眠気を起こすことが知られている薬をプラセボとして用います。これにより、新薬の眠気の副作用がプラセボ効果によるものではないことを確認する。ただし、倫理的な問題があるため、使用は限定的です。

プラセボリードインデザイン (Placebo Lead-in Design)

  • 目的: プラセボ効果が大きい被験者を試験開始前に除外する。これにより、治験薬の純粋な効果をより効率的に検出します。
  • 方法: ランダム化の前に、全ての被験者に一定期間プラセボを投与します。この期間中に症状が大幅に改善した被験者は、その後の試験から除外します。(症状が大幅に改善された被験者をプラセボ効果が強いと判断します。)

アドオン試験 (Add-on Trial)

  • 目的: 既存の標準治療薬だけでは十分な効果が得られない患者さんに対する試験。このような患者さんに新薬を追加した場合の有効性を評価します。
  • 方法: 被験者を、2つのグループに分けます。1つは、既存の標準治療薬に加えて新薬を服用するグループです。もう1つは、既存の標準治療薬に加えてプラセボを服用するグループです。被験者をランダムに分け、効果を比較します。

結果の扱い方

 これまでの説明でプラセボ試験にどういう種類がありどういうことをしているかが明確になりました。しかし、プラセボの結果がどういう意味をもっているかはまだ曖昧です。簡単には、医薬品の臨床試験におけるプラセボの結果は、新薬の効果から「プラセボ効果」や「自然経過」といった非特異的な要因によるバイアス(偏り)を差し引くための基準になります。

試験結果が示すもの

 プラセボを投与されたグループで観察される症状の改善や変化は、主に以下の要因の組み合わせであると考えられます。

プラセボ効果

  • 薬を飲んだという期待感、医師や医療環境への信頼、暗示効果など、心理的な要因によって引き起こされる生理的な改善
  • 脳内でのエンドルフィン放出(鎮痛効果)、ストレスホルモンの減少、免疫系の調整などによるもの。これにより、実際に身体内で様々な変化が起こり得ます。

自然経過(自然寛解)

  • 病気が治療しなくても自然に良くなること。特に、風邪や軽度の痛みなどが該当します。これらは、時間の経過とともに自然に治る症状では顕著です。
  • 多くの疾患には波があり、症状が一時的に悪化したり改善したりすることがあります。

測定誤差・評価誤差

  • 症状の評価が主観的であることによるブレや、測定機器の誤差、評価者のバイアスなどがあります。

プラセボと新薬の効果

  • 新薬群で得られる効果: 新薬群で観察される効果は、「新薬の真の薬理作用による効果」+「プラセボ効果」+「自然経過」+「測定誤差など」 の4つの組み合わせであると考えられます。
  • プラセボ群で得られる効果: プラセボ群で観察される効果は、新薬群で得られる効果から新薬の効果を引いたものです。「プラセボ効果」+「自然経過」+「測定誤差など」 の3つの組み合わせです。

結果の扱い方

 新薬群の効果からプラセボ群の効果を差し引くことで、「新薬の効果」 だけを浮き彫りにできます。数式で表現すると、概念的には以下のようになります。この「プラセボ群の観測された効果」が、新薬の効果を評価する上での「バイアス(プラセボ効果や自然経過などによるもの)の基準値」として機能しています。

 新薬の真の効果=(新薬群の観測された効果)−(プラセボ群の観測された効果)

なぜこの比較が重要なのか?

  • 客観性の確保: 新薬の効果か、患者の思い込みや自然治癒によるものかを明確に区別します。
  • 誤った判断の防止: プラセボ効果が強い疾患の場合、プラセボ群との比較がないと、効果のない薬でも「効いた」と誤って判断してしまうリスクがあります。
  • 承認のための科学的根拠: 各国の規制当局(例:日本のPMDA、米国のFDA)は、医薬品の承認に際して、プラセボ対照試験によって新薬の有効性がプラセボを超えていることを示す厳密な科学的根拠を求めています。

まとめ

 偽薬があることではじめて新薬の効果が明確にされている。新薬の開発に偽薬が使われていると言うことは噂では聞いたことがありました。しかし、今回プラセボ効果について調べることであらためて意味合いを理解することができました。

 

コメント