スポーツの試合後に「やっぱりこのチームが勝つと思ってた!」ということを時々聞きます。また、事件を知って「やっぱりあの会社は問題を起こすと思ってた」も聞いたことがあります。実は、これは単なる自信や勘の鋭さではありません。心理学で「後知恵バイアス(ハインドサイト・バイアス)」と呼ばれる現象です。つまり、人は結果を知った瞬間に、「最初から予測していた」と錯覚してしまうということです。私は、後知恵バイアスについては、聞いたことがありませんでしたので調べました。このブログでは、後知恵バイアスとは?、なぜ起こるのか、日常での例、その活かし方、脳との関係について説明します。
後知恵バイアスとは?
後知恵バイアスとは、出来事の結果を知った後に、あたかも自分は最初からその結果を予測していたかのように感じてしまう心理的傾向のことです。人は記憶を完全に保存できるわけではなく、結果を知った後で当時の記憶を“上書き”してしまいます。そのため、「やっぱりそうなると思ってた」と感じやすいのです。
心理的背景
人の脳は「結果を知った後」に記憶を上書きしてしまう傾向があります。つまり、「予測していた状態の記憶」と「結果を知った後の理解」が混ざってしまうのです。また、心理学の実験でも、参加者に「ある出来事の結果」を伝えると、その人たちは「自分は最初からそう予想していた」と答える割合が高くなることが確認されています。
日常での「あるある」例
・スポーツ観戦:試合後に「この展開は予想してた!」と言ってしまう。
・ニュースや事故:「やっぱりあの会社は危なかった」と思う。
・テストや試験:答えを見て「なんだ、知ってたのに!」と感じる。
こうした「後からなら分かる」感覚は、多くの人が日常的に経験しています。
なぜ起こるのか?
心理学的には、後知恵バイアスは次の理由で起こります。
・自分を有能に感じたい気持ち
「最初から分かっていた」と思うことで、判断力があるように感じられる。
・世界を理解したい欲求
結果を「当然のこと」として整理すると安心できる。
・記憶のあいまいさ
当時の考えと、結果を知った後の理解が混ざってしまう。
メリットとデメリット
- メリット
- 出来事を理解しやすく、気持ちを整理できる。
- 過去を「納得」できるようになる。
- デメリット
- 本当は予測できていなかったのに「できていた」と思い込み、反省が浅くなる。
- 他人に対して「失敗は当然」と責めすぎる原因になる。
日常での活かし方
- 反省は“当時の情報”に立ち返る
→ 結果を知った後ではなく、その瞬間にどんな情報があったかを振り返る。 - 人を責めすぎない
→ 他人の判断も「後知恵バイアス」で歪んで見えているかもしれない。 - 未来予測に過信しない
→ 「過去も当てたから次も当たる」と思うのは危険です。そして、常に不確実性を意識します。
後知恵バイアスと脳の関係
記憶の“上書き”に関わる脳の仕組み
後知恵バイアスは、「出来事を思い出すときに、結果を知った後の情報で記憶が上書きされる」ことで起きます。そして、この時に重要なのが 海馬(かいば) と 前頭前野 の働きです。
前頭前野
→ 判断や推論を担当する領域。
これが「やっぱりそうだよね」という確信を強めます。そして、結果を理解すると、「そうなるはずだった」と論理的に整理してしまいます。
海馬
→ 新しい情報を記憶するときに活躍する脳の領域。
結果を知ると、その情報を取り込んで“過去の記憶”と結びつけてしまいます。そして、海馬は出来事を記憶する役割を持ちます。しかし、新しい情報が入ると過去の記憶と結びついて更新されやすい特徴があります。そして、「最初から知っていた」ような記憶に変わります。
“報酬系”が関与する可能性
研究によっては、「自分は予測できていた」と感じるときに 脳の報酬系(線条体やドーパミン系) が働くことも示されています。まず、物事を理解したり「なるほど」と思ったとき、脳内でドーパミンが分泌されます。そして、結果を知った後に「そうなると思ってた」と考えると、この報酬系が働き、「納得した快感」が得られるため、ますます後知恵バイアスが強まります。つまり、実際には予測していなくても、「分かっていた感覚」が報酬になってしまいます。「当たってた!」と感じることで、脳がちょっとした快感を得ることになります。
錯覚を強める“再構築型の記憶”
脳の記憶は「録画の再生」ではなく、「その都度作り直す」仕組みです。まず、海馬と前頭前野が協力して「一貫したストーリー」を作り出そうとします。そして、結果を知った後の情報で記憶を再構築してしまいます。このとき、帯状皮質が「矛盾を減らす」方向に働きます。そして、「予測していた気がする」というスムーズな解釈に落ち着きます。このため、後知恵バイアスは 「脳が秩序を保とうとする副作用」 と言えます。
まとめ
ここまで後知恵バイアスとは、なぜ起こるのか、日常での例、その活かし方、脳との関係について説明しました。そこでは、後知恵バイアスは、結果を知った後に最初から分かっていたと錯覚してしまう心理現象でした。そして、これは、スポーツ観戦、ニュース、試験…日常のあらゆる場面で体験するものでした。そして、脳は不確実な世界を「理解できたこと」にして安心したいために、後知恵バイアスが起こります。これは、人間の学習や生存に役立つ機能でもある一方、冷静な反省を妨げる原因にもなります。
また、後知恵バイアスが起きた時、脳では海馬で結果を知った後に記憶を上書きをします。そして、前頭前野では、結果を筋道立てて“もっともらしい話”にします。加えて、報酬系で、当たった気がすると快感が得られ、「分かってた感覚」を強化します。つまり、後知恵バイアスは 「記憶の更新」+「一貫性を好む性質」+「納得の快感」 という脳の働きの組み合わせによって生まれます。つまり、後知恵バイアスは「脳が記憶を整理し、安心を得ようとする仕組み」が引き起こす錯覚ということになります。
よく聞いていた「やっぱり・・・だった!」の裏にこのような仕組みがあり、そして、当たった気を作り出し快感を得ていたというのは意外でした。また、反省を妨げるという点については、快感に相対するため注意をしないといけないと感じました。


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