これまでいろいろなヒューリスティックを取り上げてきました。そして、自分の頭の中の整理を含めここでこれらのヒューリスティックを整理することにしました。まず、ヒューリスティックは、複雑な問題に対応するため素早く判断するショートカットです。いろいろな局面があるのでそのヒューリスティックにもいろいろあります。
これまでのブログでは、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、アンカリング、感情ヒューリスティック、希少性ヒューリスティックを取り上げてきました。そこで、今回のブログでは、これらのヒューリスティックを比較整理します。加えて、ステレオタイプとの違いについてもよくわからないので調べてみました。これらの内容を以下に説明します。
ヒューリスティック概要
ヒューリスティックとは何か
複雑な問題を素早く解決したり、効率的に意思決定するための「経験則」や「心のショートカット」としてヒューリスティックを用いています。そして、これは日常生活で無意識のうちに多用されており、通常は非常に役立っています。例えば、レストランのメニューで「おすすめ」と書いてあるものを選ぶのも一種のヒューリスティックです。しかし、特定の情報が強調されることで判断が歪められることもあります。
脳内の思考
ヒューリスティックは、人間の物事判断時に、脳のエネルギーを節約する効率的な思考プロセスとして働きます。このプロセスは、複雑な情報をすべて論理的に分析はしません。つまり、過去の経験や典型的なイメージに基づいた「直感」や「近道」を使います。また、素早く判断しようとする脳の特性と深く関連しています。つまり、これらの判断については、速い思考のシステム1思考がもちられています。ただし、思考には、この速い思考の他に遅い思考のシステム2思考があります。この2つの思考について説明します。
システム1思考とシステム2思考
システム1思考
速い思考の直感的、無意識的、自動的な思考プロセスです。このシステムは、脳への負担を最小限に抑え、素早く意思決定を行うために働きます。ヒューリスティックはこのシステム1が引き起こす認知バイアスの一種です。そして、典型的な例やステレオタイプに当てはめて物事を判断します。なお、ステレオタイプについては、以前のブログステレオタイプって?で説明しています。
システム2思考
遅い思考の論理的、意識的、努力的な思考プロセスです。システム1で処理できない複雑な問題や、より正確な判断が求められる場合に働きます。つまり、このシステムは、情報を注意深く分析し、論理的な推論に基づいて意思決定を行います。たとえば、システム思考1による判断の誤りに気づいたとします。その場合、システム2が介入して論理的に物事を考え直します。そして、これでより正確な結論を導き出します。しかし、このシステム2は多くのエネルギーを必要とします。そのため、常に作動させるわけではありません。
代表的なヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティック(Availability Heuristic)
頭の中で簡単に思い出せる情報に基づいて、物事の頻度や確率、重要性を評価して判断するのが利用可能性ヒューリスティックです。これは、簡単に言えば、「パッと思い浮かぶことほど、よくあること、重要なことだ」と無意識に考えてしまう傾向です。しかし、この判断による近道を使うことで、偏った判断をしてしまうことがあります。
- 内容:思い出しやすい情報をもとに判断する傾向。
- 具体例:
- ニュースで飛行機事故を頻繁に見た後、「飛行機は危険だ」と感じる。
- CMでよく見るものを購入してしまう
- 口コミサイトで高評価な店、商品を選ぶ
代表性ヒューリスティック(Representativeness Heuristic)
複雑な判断時に、厳密なデータや確率の代わりに「いかにもそれっぽい」という直感を使うことがあります。そして、この “それっぽさ” に基づいて判断する思考の近道が、代表性ヒューリスティックです。
- 内容:ある事象が典型的な特徴を持っているかどうかで確率を判断する傾向。
- 具体例:
- 几帳面で内向的な人は図書館司書っぽい
- バレーボール選手、バスケットボール選手の背が高い
- スポーツウェア姿で筋肉質な人は体育会系
アンカリング(Anchoring)
アンカリング効果とは、最初に提示された情報や数値が基準(アンカー)となり、その後の意思決定や判断に影響を及ぼす心理現象です。船が錨(アンカー)を下ろしてその場に留まるように、最初に与えられた情報に思考が引っ張られ、本来の基準から離れた判断をしてしまう認知バイアスの一種です。
- 内容:最初に提示された情報(アンカー)に引きずられて判断する傾向。
- 例:セールで「定価10万円→5万円」と表示されると、5万円が安く感じる。
感情ヒューリスティック(Affect Heuristic)
感情ヒューリスティックとは、意思決定の際に感情や気分、好き嫌いといった感情的な要素が判断に影響を与える心理的な短縮プロセスのことです。好ましい対象にはメリットを高く、嫌いな対象にはデメリットを高く評価するなど、論理的な分析を介さず直感的に判断を下してしまう傾向を指します。
- 内容:感情に基づいて判断する傾向。
- 具体例:
- ある製品に好印象を持っていると、その安全性や性能も高く評価してしまう。
- 「晴れの日の今日はついている」
- 「今日はなんだかうまくいきそう!」
希少性ヒューリスティック(Scarcity Heuristic)
希少性ヒューリスティック(あるいは希少性の法則、希少性バイアス)とは、「手に入りにくいものほど価値が高いと感じ、欲しくなる」という人間の心理的な傾向です。これは情報が少ない状況や、時間的な制約がある場合に強く働き、マーケティングなどで消費者の購買意欲を高める手法として利用されます。
- 内容:手に入りにくいものほど価値があると感じる傾向。
- 具体例:
- 「限定100個」や「残りわずか」
- 「期間限定」
- 宿泊施設の「残り〇室」
ステレオタイプとヒューリスティック
ステレオタイプとヒューリスティックが似ているような気がしました。そこで、この2つの違いについて調べました。
ステレオタイプは、特定の集団に属する人々の過度に単純化され、一般化された固定的な特徴付けのことです。ポジティブなものもネガティブなものもあります。そして、ヒューリスティックによって形成され、利用されるという関係性があります。
形成と利用
- ヒューリスティックとしての機能: ステレオタイプは、社会的な情報を処理する際に、個人をいちいち詳細に分析する手間を省き、迅速にその人が属する集団の一般的な特徴を当てはめる「思考の近道」として機能し得ます。
- 代表性ヒューリスティックとの関連: ある人が、特定のステレオタイプ的な特徴を持っていると感じられる場合、その特徴に基づいて、その人がステレオタイプが当てはまる集団のメンバーであると速やかに判断されることがあります。これは代表性ヒューリスティックの一種と見なせます。
2つの違い
- ステレオタイプは特定の集団に関する内容(コンテンツ)そのものであるのに対し、ヒューリスティックは判断や意思決定を行うためのメカニズム(プロセス)です。
- すべてのヒューリスティックがステレオタイプに関わるわけではありません(例:利用可能性ヒューリスティックはステレオタイプとは直接関係しないことが多い)。
要するに、ステレオタイプは、社会的な判断を迅速に行う際に「思考の近道」(ヒューリスティック)として用いられる、一般化された知識(情報内容)と言えます。
まとめ
ここまでこれまで取り上げてきたヒューリスティックの比較をしてきました。取り上げたヒューリスティックは、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック、アンカリング、感情ヒューリスティック、希少性ヒューリスティックの5つでした。そして、これらを比較することでそれぞれの違いを明確にすることができました。そして、脳の省エネする効率的な思考プロセスとして働いていました。このプロセスは、複雑な情報をすべて論理的に分析をせず、過去の経験や典型的なイメージでの「直感」や「近道」を使用していました。そして、早く判断するために使われていました。
また、ヒューリスティックとステレオタイプとの違いについても説明しました。まず、脳の省エネという点は共通していました。ヒューリスティックについては、物事の判断に使用され、ステレオタイプは、判断するための一般化された知識のようなものでした。ただし、利用可能性ヒューリスティックはステレオタイプはステレオタイプと直接関係ないことがあります。
そして、ヒューリスティックで判断する場合には、直観が用いられているので、重要な局面では客観的に判断するすることが重要だと感じました。


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