人が「群れる」といわれるのは、特定の目的や活動のために多くの人が集まる場所です。具体的には、イベント会場、商業施設、交通機関の乗り場、祭りやスポーツ観戦の会場などが挙げられます。また、「群れる」と同じような行動に「行列」することがあるような気がします。今回、どうして「群れる」のか、どうして「行列する」のかについて調べましたので説明します。
群れる心理
生存と安全の確保
人間がまだ狩猟採集生活をしていた時代は、一人で生きることは非常に困難で危険でした。つまり、食料の確保や、肉食動物からの防御、自然災害への対応などが一人ではできませんでした。しかし、集団で協力することで生存率を格段に高めることができました。そして、この「群れることで生き延びる」本能は、現代の私たちにも強く残っています。たとえば、災害時に人々が助け合ったり、犯罪から身を守るために防犯団体が組織されたりします。こうするのは、この本能に基づいていると言えるでしょう。
互恵的利他主義
集団内では、互いに助け合う互恵的利他主義が機能します。他者に親切にすることで、将来自分が困ったときに助けてもらえるという期待が生まれます。このような協力関係は、集団全体の利益を最大化し、人間社会の発展に不可欠な要素です。
所属欲求と自己肯定感の充足
集団にいることで、人は孤立感や不安を和らげ、安心感を得られます。これは、人は「どこかに属したい」「誰かと繋がりたい」という所属欲求を満たすものです。そして、これは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求段階説」においても、基本的な欲求の一つとされています。家族、友人、学校、会社、趣味のサークルなど、何らかの集団に所属することで、私たちは安心感や安定感を得られます。また、集団の中で自分の役割を見つけ、他者から認められることで、自己肯定感や自尊心が高まります。
情報と資源の共有
集団で生活することで、個人では得られない多くの情報や資源を共有できます。例えば、流行している商品やサービスの情報をSNSで共有したり、仕事のノウハウを職場の同僚と教え合ったりします。そして、日々の生活の様々な場面で集団の恩恵を受けています。これにより、私たちはより効率的に物事を進めることができます。
同調圧力と同調行動
集団に属していると、周囲の人々と同様の行動をとろうとする心理が働きます。これを同調圧力と言います。例えば、周りの人が皆同じブランドの服を着ていたり、同じお店に行列を作っていたとします。すると、「自分もそうしなければ」と感じることがあります。これは、集団から排除されることを恐れる心理が働きます。また、「皆がやっていることは正しいだろう」と考える社会的証明の原理が関係しています。そして、特に不確実な状況では、他者の行動を真似ることで、リスクを回避し、最善の行動を選択しようとします。
行列に並ぶ心理
社会的証明(Social Proof)
多くの人が行列に並んでいるのを見ると、「あれは価値のあるものだ」と認識します。そして、自分も並ぶべきだと考える傾向があります。これは、他の人の行動を「正しい」と判断する社会的証明の心理が働いているためです。つまり、多くの人の行列は、その先に良い結果があるという安心感につながります。
公平性と規範(Fairness and Norms)
行列に並ぶというルールは、誰でも順番にサービスを受けられるという公平性を保ちます。つまり、この社会的な規範を守ることで、秩序が保たれ、争いを避けることができます。そして、誰もがこのルールに従うことで、自分も恩恵を受けられるという期待が生まれます。
恐怖と機会損失(FOMO: Fear of Missing Out)
行列に並んでいるという状況は、「並ばないと何か良いものを逃してしまうのではないか」という機会損失への恐怖(FOMO)をかき立てます。これは、群れから取り残されることへの潜在的な不安とも関連しています。これにより、貴重な機会を逃すまいとする心理が働きます。このように、行列に並ぶことは、私たちが持つ集団行動の本能と、現代社会における複雑な心理的要因が組み合わさった結果と言えます。
脳科学的な視点
報酬系とドーパミン
人が行列に並ぶと、脳内の報酬系が活性化されます。これは、ドーパミンという神経伝達物質が関わるシステムです。行列に並んでいる状態は、「この先には良いことが待っている」という期待感を生み出します。そして、この期待感が報酬系を刺激し、ドーパミンが分泌されます。これにより、心地よさやモチベーションを感じるのです。また、長時間の待ち時間の後、目的のものを手に入れたときの達成感や喜びがあります。これも、報酬系を強く刺激します。そして、これは、努力が報われたと感じるためす。そして、その快感が次の行動への動機づけにもなります。
共感とミラーニューロン
他者の感情や行動を模倣し、共感する能力は、ミラーニューロンという神経細胞によって支えられています。これにより、集団内の雰囲気を察知したり、協調をスムーズに行ったりすることができます。
社会的脳仮説
人間の脳が他の霊長類と比較して大きくなっています。そして、これは複雑な集団生活に適応するためという社会的脳仮説があります。そのために集団内の人間関係やルールの理解、記憶が必要です。そして、対応ためには、高度な認知能力が不可欠だったと考えられています。
社会的認知と安心感
行列に並ぶことは、社会的証明という心理現象の一環です。そして、多くの人が同じ行動をとっているのを見ると、それが「正しい」「安全」な行動だと脳が判断します。つまり、これは進化の過程で、集団から外れることが生存リスクを下げる要因でした。その結果、集団に同調することが本能的に組み込まれたと考えられます。
脳の扁桃体や前頭前野などの領域は、他者の行動や意図を読み取り、適切な社会行動を判断する役割を担っています。行列に並ぶことで「みんなと同じ」という安心感を得ます。これにより、これらの領域が関与して不安が軽減され、秩序を保つ行動をとるように促されます。
認知的不協和の解消
行列に長時間並んだ後、「期待していたほどではなかった」と感じた場合、脳は「認知的不協和」という心理的な不快感を経験します。これは、自身の行動(長時間並んだこと)と結果(期待外れだったこと)に矛盾が生じるためです。そして、この不快感を解消するため、脳は無意識的に「いや、やっぱり美味しかった」「並んだだけの価値はあった」と自己正当化しようとします。これも、再び行列に並ぶことを肯定的に捉える一因となります。
まとめ
このように、人が「群れ」たがるのは、進化の過程で身についた生存本能から、現代社会における心理的な欲求に至るまで、様々な要因が複雑に絡み合っています。そして、「行列する」心理についても、「群れ」ることと共通している要因が多いことがわかりました。その背景には、報酬系とドーパミン、共感とミラーニューロン、社会的脳仮説、社会的認知と安心感、認知的不協和の解消などの脳機能が関わっていることがわかりました。よく考えてみると、「行列する」ことも「群れ」るの1部分かもしれません。これまでは、行列に並ぶことは目的のものを手に入れるだけと思っていました。しかし、人間の本能の部分が影響しているということを認識でしました。
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