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褒めすぎるとやる気を失うのはなぜ? 認知的評価理論

心理
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 「子どもを褒めて伸ばそう」と思って毎回「すごい!」「えらいね!」と言っていた。すると、「なぜかやる気をなくしてしまった…」というのを聞いたことがあります。しかし、「そのプロセスを褒めるとやる気が出た」ということを聞いたことがあります。そして、この現象は、心理学で 「認知的評価理論(Cognitive Evaluation Theory: CET)」 と呼ばれています。しかし、一見やる気を高めそうな「褒め言葉」や「ご褒美」が、逆にやる気を下げることがあるようです。

 このブログでは、認知的評価理論がどのようなものか、なぜ褒めすぎがダメなのか、どうしたらよいかの活用法について調べました。以下にこれらの内容について説明します。

認知的評価理論とは?

 認知的評価理論は、心理学者のデシやラザルスによって提唱された内発的動機づけに関する理論です。そして、より大きな枠組みの自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)の一部を構成しています。簡単には、外からの報酬や評価が、人の内側のやる気にどう影響するかを説明する理論です。この理論の核心は、「外的要因が、人が活動そのものに感じる興味や楽しみにどのような影響を与えるか」を説明することです。

  • 内発的動機づけ
    「楽しいからやる」「もっと上手くなりたいからやる」などです。これらは、自分の内側から湧くやる気になります。
  • 外発的動機づけ
    「ご褒美がもらえるから」「怒られたくないから」などです。これらは、外から与えられる理由によるやる気になります。

実験例

 デシの有名な実験では、パズルを解く課題を与え、グループA,Bを比較しました。その結果、報酬を与えられたグループは報酬がなくなるとやる気を失いました。そして、報酬なしでやっていたグループのほうが継続的に取り組んだという結果が得られました。

  • グループA:報酬あり(解いたらお金がもらえる)
  • グループB:報酬なし

なぜ褒めすぎるとやる気を失うのか?

 ポイントは、自分の行動を「誰がコントロールしているか」 という感覚にあります。

  1. 褒められる=コントロールされていると感じる
     過度な褒め言葉やご褒美は「やらされている感」を生みます。そして、「やりたいからやっていた」ことが、「褒められるからやる」に変わってしまいます。
  2. 内発的動機が弱まる
     楽しさや好奇心から生まれるやる気(内発的動機)が失われます。そして、外的な報酬がないと続けられなくなります。
  3. ご褒美がなくなると急にやる気がなくなる
     例えば「テストで100点を取ったらお小遣いアップ」と言われています。そうすると、お小遣いがなければ勉強しなくなる…という状態に陥ります。

認知的評価理論の主要な構成要素

 認知的評価理論は、人が生まれつき持っている2つの基本的な心理的欲求と外的要因が持つ2つの側面に焦点を当てています。

2つの基本的な心理的欲求

 認知的評価理論は、内発的動機づけを維持・向上させるため使用します。そして、以下の有能感と自己決定感という2つの欲求の充足が不可欠であると考えます。

  • 有能感(Competence)
    • 「自分はできる」「効果的に行動できる」という感覚を持つことです。
    • 外部からの肯定的なフィードバックや、課題を成功裏に遂行した経験によって高まります。
  • 自律性/自己決定感(Autonomy/Self-determination)
    • 「自分の行動は外部からの強制ではなく、自分自身の選択によって行なっている」という感覚を持つことです。
    • 自分の行動の原因が自分自身にある(内的統制の所在)と認知することが重要です。

応用例 活用法

  • 金銭的報酬(外発的報酬)
    • 既に楽しいタスクに対して「報酬を与える」と伝えます。すると、統制的側面が強調されます(報酬のためにやっていると感じる)。そして、内発的動機が低下するリスクがあります。
    • しかし、報酬を能力が認められた証(情報的側面)として与える様にします。この場合は、内発的動機づけを損ないにくいとされます。
  • フィードバック
    • 「君は優秀だから、もっとこのやり方でやるべきだ」。このような指示や強制のニュアンスを含むフィードバックは、統制的に働き、自律性を損ないます。
    • 「君の工夫のおかげで、素晴らしい結果が出た」。このような能力を具体的に認め、選択の余地を残すフィードバックは、情報的に働き、有能感を高めます。

 この理論は、教育、組織マネジメント、スポーツ指導などでもちられています。そして、人が意欲的に活動に取り組むための環境設計、報酬や評価の与え方を検討する上で重要な指針となっています。

場面別・認知的評価理論の活用法

1. 子育てでの活用

  • 努力や工夫を褒める
    • NG「テストで100点取ったね」
      OK「毎日コツコツ勉強してえらいね」と努力そのものを褒めます。
  • 主体性を尊重する質問をする
    • 「次はどうしたい?」と聞きます。そうすることで、自分で考えて行動する力を育てます。
  • 楽しさを軸にする
    • 遊びや学びの中で「面白い」「挑戦できる」と感じる体験を重視します。

2. 職場での活用

  • プロセスを評価するフィードバック
    • 「今回の企画書、段取りがしっかりしていて助かった」と具体的な工夫を褒めます。
  • やる気の源を理解する
    • 金銭的報酬や評価だけに頼らず、仕事の意味や達成感を伝えます。
  • 過度な褒め方は避ける
    • 成果だけを褒めると、報酬依存になりやすいので注意します。

3. 自己成長・学習での活用

  • 内発的動機を意識する
    • 「やりたいからやる」「知りたいからやる」という気持ちを確認しながら行動します。
  • 自己評価を工夫する
    • 日記やチェックリストで「頑張ったプロセス」を振り返ります。
  • 小さな挑戦で成功体験を重ねる
    • 自分で目標を決め、達成したときは努力を自分で認めます。

上手に褒めるコツ

  • 成果よりもプロセスを褒める
    「100点取ってすごいね」ではなく「毎日コツコツ勉強してえらいね」と努力を評価します。
  • 本人の主体性を尊重する
    「よく頑張ったね。次は自分でどうしたい?」と聞いてみます。
  • 内発的動機を刺激する言葉を使う
    「楽しそうに取り組んでたね」「工夫してるのがいいね」などの言葉をかけます。

まとめ

 ここまで認知的評価理論がどのようなものか、なぜ褒めすぎがダメなのか、どうしたらよいかの活用法について説明しました。そして、最も重要な結論は、外的報酬が必ずしも動機づけを高めるわけではなく、しばしば内発的動機づけを損なうという点でした。つまり、統制的(強制・支配と感じる)な場合には、自律性を低下させました。そして、情報的(有能さの証明と感じる)な場合には、有能感を高めました。

 認知的評価理論によると、褒めすぎやご褒美の与えすぎは、逆にやる気を下げることがあります。大切なのは、成果ではなく努力や工夫を褒めて相手の自主性や楽しさを支える褒め方をすることです。そして、「やりたいからやる」という気持ちを守ることが、長期的なモチベーションにつながります。これらを意識することで、子育て・職場・学習すべての場面でやる気を長続きさせる可能性があると考えられます。

 

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