テレビや身の回りで、『タバコは体に悪い』と言いながらやめられないということを聞きます。また、高い買い物をした後、『これは良い買い物だった』と自分に言い聞かせたりします。特に、値段が高いほどそのような傾向が強いような気がします。このように、体に悪い、値段が高いということはわかっています。しかし、タバコを吸い続ける、購入するという行為をします。この矛盾を解消しようとする心の動きを認知的不協和(Cognitive Dissonance)と言います。ここでは、認知的不協和がどういうものか?、具体例、解消法について説明します。
認知的不協和とは?
人が矛盾する二つの考えや信念、行動を同時に持つこと心理的な不快感やストレスのが生じます。この不快感、ストレスが認知的不協和です。そして、不快感解消のため、無意識に自分の考えや行動を正当化しようとします。この理論は、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。自分の認知(考え、信念、知識)と、実際の行動の間に矛盾を感じた時に発生します。次に、認知的不協和の概念を分かりやすく説明します。
- 認知: 私たちが持っている考えや信念、知識(例:「タバコは体に悪い」)
- 行動: 実際に行うこと(例:「タバコを吸う」)
この二つの間に矛盾が生じたときに不快感(=不協和)が生まれます。そして、その不快感を解消するために、人は自分の行動や考えを正当化しようとします。
具体的な例
喫煙者の心理
- 認知: 「タバコは体に悪い」
- 行動: 「タバコを吸い続ける」
- 不協和の解消: この矛盾からくる不快感を和らげることを考えます。つまり、「タバコはストレス解消になるから仕方ない」とか、「自分の好きなことをして短くても幸せな人生を送りたい」などと考えます。そして、自分の行動を正当化します。
イソップ寓話「すっぱい葡萄」
- 認知: 「ブドウは甘くておいしいはずだ」
- 行動: 「高い場所にあるブドウが取れない」
- 不協和の解消: キツネはブドウが手に入らないという行動を認知しています。また、ブドウを食べたいという欲望があります。そして、この矛盾を解消するために、「どうせあのブドウはすっぱくてまずいに違いない」と考えます。これにより、欲望を否定し、心の平穏を保ちました。
高価な買い物の後悔
- 認知: 「この商品は高すぎる。買わない方がよかったかもしれない」
- 行動: 「高価な商品を購入した」
- 不協和の解消: 買い物への後悔という不快感を解消したいと考えています。そのために、「これは一生使えるものだから」「ストレス発散になったし、必要な出費だ」と考えます。そして、このように考えることで、自分の行動を肯定します。
ビジネスへの適用
認知的不協和の理論は、マーケティングや営業でも応用されています。例えば、顧客が製品購入後に「この買い物は正しかったか?」と後悔することがあります。そして、この「購買後の不協和」解消に、購入後のフォローアップメールで製品のメリットを再確認させたり、顧客の肯定的なレビューを共有したりすることがあります。そして、これにより、顧客は「良い買い物をした」と再認識し、満足度が高まります。
認知的不協和の解消方法
認知を変える
「タバコは体に悪い」という認知を変えます。つまり、「タバコと病気の因果関係は科学的に証明されていない」などと歪める方法です。これは、自分の都合の良い情報だけを探したり、都合の悪い情報を無視したりすることで行われます。
行動を変える
「タバコは体に悪い」という認知に合わせて行動を変えます。つまり、実際に行動を変える(タバコを止める)ことで、矛盾を根本的に解消します。しかし、この方法は最も困難で、多くの人は自己正当化に走りがちです。
新しい認知を追加する
矛盾する二つの認知の間に、新たな認知を追加してバランスを取ります。例えば、「タバコは体に悪い」という認知と、「タバコを吸う」という行動があります。そして、これらの間に、「タバコを吸うことでストレスが解消される」という新たな認知を加えることで、不快感を軽減します。
脳との関係
認知的不協和が単なる心理現象ではなく、脳内で実際に特定の活動として観察できる、より生物学的な現象であることが明らかになってきています。例えば、「すっぱい葡萄」の寓話のように、食べたいのに手に入らないという矛盾を解消する際に、脳の特定部位の活動が高まることがfMRIを用いた研究で示されています。以下に認知的不協和と脳に関係していることを示します。
- 前部帯状皮質(ACC): 認知的不協和を体験すると、この部位の活動が高まることが研究で示されています。前部帯状皮質は、葛藤(コンフリクト)の検出やエラーのモニタリングに関わる領域です。つまり、矛盾する考えや行動があるときに、脳が「何かがおかしい」と警告を発する役割を担っていると考えられます。
- 前頭前野(PFC): この部位も認知的不協和の際に活動が高まります。前頭前野は、意思決定や理性的な思考、行動の計画などの高度な認知機能に関わっています。この活動の高まりは、不協和という不快な状態を解消しようとしています。そして、そのために、新しい理由を見つけ出したり、考え方を修正したりするプロセスを反映していると考えられます。
- 報酬系(側坐核): 認知的不協和を解消し、一貫した状態に戻ると、脳の報酬系が活性化し、快感を覚えることが示唆されています。つまり、心の平穏を取り戻したことに対する一種の「ご褒美」のようなものです。そして、自己正当化の行動をさらに強化する可能性があります。
まとめ
ここまでに認知的不協和がどういうものかについて、具体例を用いて説明しました。具体的な例として、喫煙者の心理、イソップ寓話「すっぱい葡萄」、高価な買い物の後悔を説明しました。また、認知的不協和の解消方法として、認知を変える、新しい認知を追加を示しました。そして、認知的不協和と脳の関係として、前部帯状皮質、前頭前野、報酬系を説明しました。そして、認知的不協和を活用するためにどうしたらよいかについて以下にまとめました。
- 自分を知る: 自分が無意識のうちに正当化していることに気づくきっかけになります。
- 他者を理解する: 他人の矛盾した行動を安易に非難するのではなく、「何かを正当化しているのかもしれない」と考えることで、より広い視野で物事を捉えられるようになります。
- より良い選択をする: 自分の不協和に気づくことで、本当に価値のある選択や行動ができるようになります。
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