電車内で体調が悪そうな人を見ても「誰かが助けるだろう」と他の人の行動を待ってしまう。また、職場で仲間が不正をしていても「自分だけが悪目立ちする」「他の人が対処するだろう」と考え、見て見ぬふりをしてしまいました。そして、TVでのこのような場面で「周囲に人が大勢いるのに、なぜ誰も動かないんだろう?」と感じたことがあります。そして、これは心理学で「傍観者効果(bystander effect)」と呼ばれる現象のようです。まったく知りませんでしたので調べることにしました。
このブログでは、傍観者効果とは?、日常の例、傍観者効果の行動を防ぐには、脳と心理メカニズムについて説明しています。
傍観者効果とは?
傍観者効果とは、人が大勢いる場面では、困っている人を助ける行動が起きにくくなる心理現象です。そして、研究の結果、周囲に人が多いほど「誰かがやるだろう」と責任が分散してしまいます。そして、その結果自分が動かなくてもいいと思ってしまうことが明らかになっています。
有名なきっかけは、1964年にアメリカで起きた「キティ・ジェノヴィーズ事件」です。若い女性が夜道で襲われ命を落とした際、周囲の住民が多数目撃していました。しかし、ほとんど誰も助けに行かなかったことが社会問題になりました。
日常での例
- 電車でのトラブル
誰かが体調を崩していても、「自分が声をかけるべきか…?」と迷っているうちに誰も動かないことがある。 - 学校や職場でのいじめ・ハラスメント
周囲に人が多いほど「自分が止めなくても大丈夫」と思ってしまう。 - 交通事故の現場
見物人が多いほど、逆に通報や救助が遅れることがあります。
傍観者効果を防ぐには?
- 責任を明確にする
→「誰か助けて!」ではなく「あなた、119番お願いします」と具体的に指示します。 - 自分が一歩踏み出す意識を持つ
→「誰かがやるだろう」ではなく「自分が最初の一人になろう」と意識します。 - 小さな行動から
→声をかける、近くの人に伝えるなど、自分にできることから動いてみます。
脳、心理メカニズムとの関係
心理メカニズム
傍観者効果は、いくつかの心理メカニズムで説明されます。
- 責任の分散
- 「自分一人の責任じゃない」と感じてしまいます。
- 多数派に同調
- 周囲が動かないと「今は動かなくていいんだ」と思い込みます。
- 評価への不安
- 「助けようとして失敗したら恥ずかしい」という気持ちがブレーキになります。
脳の働き
脳科学的には、社会的状況を判断する前頭前野や、不安や恐怖を処理する扁桃体が関係していると考えられています。
前頭前野 ― 「合理化」をする司令塔
前頭前野は意思決定や社会的判断を担う部分です。そして、周囲を見て「誰も動いていないから、今は動かなくてもいい」と自分を納得させてしまいます。
- 前頭前野は「意思決定」「社会的判断」「行動の抑制」に関わる領域です。
- 周囲の様子を見て「誰も動いていないから自分も動かなくていい」と判断するのは、この部分の働きです。
- 社会的同調(みんなに合わせる傾向)を強める要因になります。
扁桃体 ― 不安や恐怖を増幅する
扁桃体は恐怖や不安に敏感です。そして、「声をかけて間違えたらどうしよう」「恥をかくかも」という気持ちを強くします。その結果、行動をブレーキさせます。
- 扁桃体は「恐怖や不安」を処理する場所です。
- 助けに行くと「恥をかくかも」「失敗したらどうしよう」という不安を増幅させます。
- この恐怖反応が強いと、行動をためらいやすくなります。
前帯状皮質 ― 「みんなと違う」を気にする
前帯状皮質は「自分と周囲の違い」に反応する部位です。そして、自分だけ助けようと動くと「周りから浮いてしまう」という違和感を覚えます。そして、その結果足を止めさせます。
- 自分の行動と周囲の行動の「ズレ」に敏感に反応する部位です。
- 周囲が静観しているのに自分だけ動くと「浮いてしまう」という違和感が生じ、行動を抑制する方向に働きます。
報酬系 ― 助ける喜びより安心感が勝つ
人を助けると感謝されるなどの「社会的報酬」で脳は快感を得ます。しかし、傍観者効果の場面では「動かないことによる安心感」が強く働きます。そして、助けることで得られる喜びを上回ってしまうのです。
- 誰かを助けるとき、人間の脳は「社会的報酬」(感謝される、いいことをした満足感)を感じます。
- ただし、傍観者効果の場面では「動かないことによる安心感(損失回避)」が優先され、報酬系の活性が弱まります。
まとめ
ここまで、傍観者効果とは?、日常の例、傍観者効果の行動を防ぐには、脳と心理メカニズムについて説明しました。そして、傍観者効果が、「大勢いるほど誰も助けない」 という逆説的な心理現象です。そして、脳がリスクを避け、集団に合わせたいという本能的を優先した結果と説明しました。また、脳の働きとして、前頭前野で「他の人がやらないなら、自分もしなくていい」と合理化します。そして、扁桃体では、「失敗したら怖い」という不安を強め、前帯状皮質では、「自分だけ動いたら変だ」という同調圧力を意識させます。そして、その結果、報酬系では、「助けたい気持ち」より「目立ちたくない安心感」が勝ってしまいます。
また、日常の例では、ニュースの事件や日常の小さな場面にも隠れているものを示しました。そして、「自分もそうだったかも」と気づくような一面がありました。加えて、対処するために大切なのは、「周りの様子をうかがう前に、自分ができる一歩を踏み出す勇気」です。そして、それが、誰かの命や心を救うきっかけになるかもしれません。


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