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思い出はなぜ美化されるのか?

心理
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 「つらい思い出も時間が経てば笑い話になる」といった話を聞いたことがあります。また、つらい出来事は、脳が忘れて苦痛を和らげる生存機能があると聞いたこともあります。ここでは、思い出が美化されるのには、どのような要因があるのかを調べましたので説明します。

思い出を美化する心理的要素

ピーク・エンドの法則

 心理学の「ピーク・エンドの法則(peak-end rule)」も、思い出が美化される要因の一つです。この法則は、人が過去の経験を評価する際、その経験の最も感情が盛り上がった瞬間(ピーク)と、最後の瞬間(エンド)の印象によって全体の評価が決まるというものです。つまり、辛い出来事のピークや終わりがポジティブならば、経験全体が美化され記憶されます。例えば、辛かったマラソンでも、ゴールした瞬間の達成感や喜びが強く印象に残ります。そして、苦しかった部分は薄れて「良い思い出」となります。なお、ブログ『「ピーク・エンドの法則」― 人の記憶は“最初から最後まで”では決まらない?』で「ピーク・エンドの法則」について説明しています。

ネガティブな感情を薄める「ポジティビティ効果」

 脳は、ポジティブな感情を伴う記憶を優先的に想起します。そして、ネガティブな感情を伴う記憶を忘れやすくする傾向があります。また、楽しい思い出は思い出すたびに心地よさを感じます。そのため、何度も想起されます。その結果、その記憶がより強固になり、さらに美化されます。そして、このポジティブなフィードバックループが生まれることになります。

 逆に、つらかった事や後悔した経験に対しては、脳が意図的にネガティブな感情を抑制します。そして、逆にポジティブな側面を強調したりすることがあります。例えば、つらかった失恋の記憶が、時間が経つと「あの人に出会えてよかった」と思えるようになります。そして、大変だった仕事が「あの経験により成長できた」と思えるようになったりします。これは、精神的なストレスを軽減します。これは、自尊心や幸福感を維持するための自己防衛機能でもあります。

自分自身を納得させる「認知的不協和の解消」

 人は、自分が過去にした選択や行動を肯定したいという心理を持っています。もし、過去の選択が間違っていたと認めると、認知的不協和という不快な感情が生じます。この不快感を解消するために、無意識のうちに過去の選択を正当化します。そして、それに伴う出来事を美化します。例えば、つらい出来事を経験したとき、「なぜ自分だけこんな目に…」と考えると、気分が落ち込みます。そこで、脳は「これは自分にとって意味のある経験だった」と考えます。そして、このようにすることで、矛盾を解消しようとします。これにより、つらい記憶が「意味のある、良い経験」として再解釈され、美化されます。

自己防衛と認知バイアス

 思い出を美化することは、心理的な安定を保つための自己防衛機能でもあります。つまり、人は、過去の自分の選択や行動が正しかったと信じたいという強い欲求を持っています。そして、過去の辛い経験を意味のあるものとして捉え直すことで、認知的不協和(自分の行動と信念の矛盾から生じる不快感)を解消し、自尊心や幸福感を維持しようとします。これは「バラ色の回顧」と呼ばれる認知バイアスの一種で、過去をより良く見せることで、現在の自分を肯定する脳の働きです。

脳機能との関係

記憶の再構成

 私たちの脳は、出来事をそのままの状態で「録画」しているわけではありません。脳では重要な要素や感情的な側面を抽出し保存し、思い出すたびに再構成しています。つまり、この過程で、現在の気分や状況、将来の期待に合わせて、記憶が無意識のうちに修正されます。特に、感情的な出来事に関しては、この再構築プロセスが顕著に起こります。例えば、辛かった過去も、現在の自分がその経験を乗り越えます。また、より強くなったと信じたい場合、脳は苦労した部分を誇張したり、ポジティブな結果に結びつけたりするように記憶を「編集」します。そして、つらい出来事も、時間が経つと「あの時があったから今がある」というように、意味づけが変わることがあります。

感情と記憶の相互作用

 脳内の扁桃体は感情を司り、海馬は記憶の形成に関わっています。そして、これら二つの領域は密接に連携しており、強い感情を伴う出来事は記憶として定着しやすくなります。しかし、ポジティブな感情は報酬系と結びついています。また、人は心地よい思い出を繰り返し思い出し、そのたびにドーパミンが分泌されます。そして、この繰り返しの想起によって、記憶はさらに強化され、美化されていきます。逆に、ネガティブな感情を伴う記憶は、精神的なストレスを避けるために薄れやすくなります。

まとめ

 思い出が美化されるのには、どのような要因があるのかというテーマで、思い出を美化する心理的要素と脳機能との関係から説明しました。まず、心理的要因については、ピーク・エンドの法則、ネガティブな感情を薄める「ポジティビティ効果」、自分自身を納得させる「認知的不協和の解消」、自己防衛と認知バイアスを説明しました。また、脳機能との関係については、記憶の再構成、感情と記憶の相互作用を説明しました。このような多様な要因にによって、思い出、記憶が美化されていることが明確になりました。そして、本能によることも明らかになりました。

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