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なぜ私たちは偏った判断をしてしまうのか? :利用可能性ヒューリスティック

心理
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 CMでよく見る商品を見覚えがあるからかなんとなく選んでしまうということがあります。また、TVのニュースで少年犯罪が扱われていると少年犯罪が増えていると感じてしまう人もいるようです。そして、口コミサイトの評価の高い店を選んでしまうことがあります。これもヒューリスティックの1つです。これまで、感情ヒューリスティック代表性ヒューリスティックなどのヒューリスティックについてブログを書いています。そのシリーズという意味合いもあります。

 このブログでは、利用可能性ヒューリスティックとは何か、その仕組み、具体例、避けるための方法、そして利用可能性ヒューリスティックの時の脳の処理などについて調べたので説明します。

利用可能性ヒューリスティックとは

 人は、利用可能性ヒューリスティックという心の近道の使用で偏った判断をすることがあります。これは、頭の中で簡単に思い出せる情報に基き、物事の頻度や確率、重要性を評価するものです。簡単に言えば、「パッと思い浮かぶことほど、よくあること、重要なことだ」と無意識に考えてしまう傾向です。

ヒューリスティックとは何か

 ヒューリスティックは、複雑な問題を素早く解決したり、効率的に意思決定したりするための「経験則」や「心のショートカット」です。私たちは日常生活で無意識のうちにこれらを多用しており、通常は非常に役立ちます。例えば、レストランのメニューで「おすすめ」を選ぶのも一種のヒューリスティックです。しかし、利用可能性ヒューリスティックのように、特定の情報が強調され判断が歪められることがあります。

利用可能性ヒューリスティックの仕組み

 このヒューリスティックは、以下の二つの要因によって引き起こされます。そして、これらの情報が利用可能であるため、私たちはその情報が実際の状況を正確に反映していると誤って判断してしまいます。

  1. 情報の想起しやすさ: 記憶に強く残っている情報(例:衝撃的なニュースや個人的な体験)は、簡単に頭に浮かびます。
  2. 想起の頻度: 繰り返し目にしたり聞いたりする情報(例:広告やSNSのトレンド)は、想起しやすくなります。

具体的な事例

飛行機事故の恐怖

 テレビやニュースで大々的に報道される飛行機事故は、私たちの記憶に強く刻み込まれます。このため、多くの人が「飛行機は危険だ」と信じ込んでしまいます。しかし、実際の統計を見ると、自動車事故で亡くなる人の方が圧倒的に多いです。利用可能性ヒューリスティックが、ニュースで強く印象付けられた情報に基づいて、飛行機のリスクを過大評価させているのです。

新商品の売れ行きを勘違いする

 特定商品の広告を頻繁に見ると、その商品が市場で大成功していると思い込むことがあります。実際には、広告戦略が巧みであるだけで、必ずしも多くの人が購入しているわけではないかもしれません。そして、広告でその商品情報が頭の中で「利用可能」になり実際の人気度以上に評価してしまいます。

医療診断について

 医師が、最近扱った珍しい病気の症例を強く記憶しています。この状況で、次に似た症状の患者を診たときに、その珍しい病気と誤診してしまうことがあります。この場合も、最近の経験が頭に残りやすいため、頻繁に発生する一般的な病気の可能性を過小評価してしまうことになります。

偏った判断を避けるには

 利用可能性ヒューリスティックの罠にはまらないためには、以下のことを意識することが重要です。

  1. 情報の多角的な収集: 一つの情報源に依存せず、複数の視点から情報を集めます。これにより、偏りを減らすことができます。
  2. 統計や事実の確認: 直感や記憶に頼るのではなく、信頼できるデータや統計情報を確認します。このように確認する習慣をつけることが大切です。
  3. 自己認識: 自分がどのような情報に影響されやすいかを自覚します。そして、これにより意識的に判断を見直すことができます。

 利用可能性ヒューリスティックは、私たちの思考の効率化に貢献しています。しかし、その一方で、誤った判断を招く原因にもなります。つまり、この心理的バイアスを理解することは、より合理的で客観的な意思決定をするための第一歩となります。

利用可能性ヒューリスティックと脳

脳の「省エネ」システム

 人間の脳は、複雑な情報をすべて論理的に分析すると膨大なエネルギーを消費します。そのため、日々の意思決定の多くを、直感的で迅速な「システム1思考」に頼っています。利用可能性ヒューリスティックは、このシステム1の「心のショートカット」の一つです。脳は、判断を下す際に、最も簡単に、そして素早くアクセスできる記憶を検索します。そして、その結果を利用して結論を導き出そうとします。

記憶の形成と呼び出し

 利用可能性ヒューリスティックを形成する記憶は、特に以下の要素が関わっています。

  • 感情の強い情報: 衝撃的なニュースや個人的な体験など、扁桃体が感情と結びつけて記憶を強化します。恐怖や興奮といった強い感情を伴う記憶は、他の記憶よりも強く残ります。そして、後から簡単に思い出せるようになります。
  • 反復された情報: 広告やSNSで繰り返し目にしたり聞いたりします。そのような情報は、海馬が関わる短期記憶から長期記憶へと移行しやすくなります。つまり、何度も繰り返されることで、その情報はより「利用可能」な状態になります。

 これらの記憶は、単に「思い出す」だけではありません。「思い出しやすい」という感覚を生み出します。そして、「思い出しやすさ」をその出来事の頻度や重要性と誤って結びつけてしまう。例えば、飛行機事故のニュースは強い感情を伴うため記憶に残りやすいものです。そして、その「思い出しやすさ」が、飛行機事故のリスクを過大評価させる原因となります。

脳の誤った判断

 利用可能性ヒューリスティックは、私たちが普段意識しない部分で働いています。脳は、記憶の内容だけでなく、記憶を引き出すのにかかった労力も判断材料にしています。つまり、簡単に思い出せる情報は、頻繁に起こる、あるいは重要であると脳が判断します。そして、労力を要する情報(例:統計データ)を無視してしまう傾向があります。この「認知の楽さ」が、客観的な事実よりも主観的な印象を優先させる結果につながります。

仕組み

 利用可能性ヒューリスティックの裏側では、扁桃体海馬が協力しています。これにより、感情と結びついた記憶の形成とアクセスを制御しています。脳は「省エネ」を重視し論理的思考(システム2)よりも直感的思考(システム1)を優先します。そして、簡単にアクセスできる情報を頼りに判断を下します。

扁桃体の役割:感情との結びつき

 扁桃体は、脳の奥深くにあるアーモンド形の部位です。そして、扁桃体は感情の処理、特に恐怖や危険といった強い感情と深く関わっています。衝撃的な出来事や感情を揺さぶる体験で扁桃体が活性化し、その出来事と感情を強く結びつけます。

  • 強い記憶の形成: 扁桃体は、感情的に重要な情報を海馬に伝えます。そして、長期記憶として定着するのを助けます。これにより、飛行機事故や災害のニュースといった感情を伴う出来事は、他の情報よりも鮮明で忘れにくい記憶になります。
  • 記憶の引き出しやすさ: 感情と結びついた記憶は、単に「存在する」だけではありません。それは、「思い出しやすい」という特性を持ちます。この「思い出しやすさ」を、その出来事の頻度や重要性と無意識のうちに結びつけます。

海馬の役割:記憶の司令塔

 海馬は、新しい記憶を形成します。かつ、古い記憶を整理・貯蔵する「記憶の司令塔」のような役割を担っています。そして、扁桃体から受けた信号をもとに、感情と結びついた情報を記憶として定着させます。

  • エピソード記憶の形成: 飛行機事故のニュースをテレビで見ます。このような具体的な出来事の記憶(エピソード記憶)は、海馬によって形成されます。
  • 反復による強化: 広告やSNSで同じ情報を繰り返し目にします。そして、海馬はその情報を何度も処理し、記憶を強化します。この反復によって、情報がより強固になり、後で簡単に思い出せるようになります。

脳の全体的な動き

 扁桃体と海馬が連携をします。そして、感情的、反復的な提示情報は、脳内で「簡単で利用可能な情報」として扱われます。そして、この「認知の容易さ」が、論理や統計(システム2思考)による慎重な判断を飛び越えます。直感(システム1思考)に基づいて結論を導き出す要因となります。その結果、私たちは利用可能性ヒューリスティックの罠にはまります。そして、客観的な事実よりも主観的な印象を優先する偏った判断をしてしまいます。

まとめ

 ここまで利用可能性ヒューリスティックとは何か、その仕組み、具体例、避けるための方法、そして利用可能性ヒューリスティックの時の脳の処理などについて調べたので説明しました。そして、これは、頭の中で簡単に思い出せる情報に基づいて、物事の頻度や確率、重要性を評価してしまう認知バイアスである利用可能性ヒューリスティックでした。

 この利用可能性ヒューリスティックには、強い記憶や思い出しやすさが影響していました。この強い記憶にはTVやネットなどで繰り返し目にすることが関係しています。また、口コミサイトの評価や当店のおすすめなどは重要性を示しています。そして、この思い出しやすさやその重要性が利用可能性ヒューリスティックを形成していました。そして脳では、海馬と扁桃体により、反復による記憶の強化、強い記憶の形成が、記憶の引き出しやすさとなり、直観で結論を出すようになっていました。しかし、これに頼りすぎると間違った判断をすることがあるので、客観的に物事を見ることで対策する必要があると考えられます。

 今回は、利用可能性ヒューリスティックについて説明しましたが、これまでいろいろなヒューリスティックが出てきたので、以降のブログで整理したいと考えています。
 

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