「現状に満足しているわけではないけれど、新しい一歩を踏み出すのはもっと怖い」。また、テレビの転職のCMでもそのようなことが言われていました。他にも似たような状況があったり、聞いたこともあります。また、同じように感じて動けなくなっている時、心の中で働いているのは、単なる恐怖心ではないようです。そして、脳が持つ『曖昧さへの強いアレルギー反応』かもしれません。私たちは、リスク(確率がわかっている危険)には対処できます。しかし、アンビギュイティ(確率すらわからない曖昧さ)にはパニックを起こすようにプログラミングされています。この「ハッキリしないものを避けたい」という本能が、時に可能性を狭めてしまうことがあります。
このブログでは、人はなぜ“曖昧さ”を嫌うのかについて、エルズバーグのパラドックス、エルズバーグの壺の実験、日常への落とし込みについて調べましたので以下に説明します。
エルズバーグのパラドックス
リスクとアンビギュイティ
「リスク」と「曖昧さ(アンビギュイティ)」は、日常では同じ意味で使われます。しかし、心理学や経済学では明確に区別されます。
- リスク(Risk): 起こる可能性が数字でわかっている状態です。例えば、サイコロの1が出る確率は6分の1などです。
- 曖昧さ(Ambiguity): そもそも確率すらわからない状態です。例えば、新しいビジネスが成功する確率は不明です。

なぜ「パラドックス」と呼ばれるのか?
従来は、「人は期待値が同じなら、どちらを選んでもいいはずだ」と考えられてきました。しかし、1961年にダニエル・エルズバーグが提示した理論は、これを真っ向から否定しました。人間は、たとえ期待値が同じか低くても、確率がハッキリしている方を選ぶというものです。そして、確率が不透明な方を極端に避けるという非合理な行動をとります。これを「エルズバーグのパラドックス」と呼びます。
エルズバーグの壺の実験
エルズバーグはこの理論を証明するために、非常にシンプルな「壺(つぼ)」を使った実験を行いました。
実験の設定
質問:あなたの目の前に、中身が見えない2つの壺があります。どちらからボールを取り出すか選んでください。そして、当たれば賞金1万円になります。
- 壺A(リスク): 赤いボール50個、黒いボール50個が入っている。
- 壺B(曖昧さ): 赤と黒のボールが合計100個入っているが、その内訳(比率)は全くわからない。
結果
- 「赤いボールを当てたら賞金」というルールにすると、ほとんどの人が壺Aを選びます。それは、「壺Bは赤が1個も入っていないかもしれない」と疑うためです。
- 次に、「黒いボールを当てたら賞金」というルールに変えます。論理的に考えれば「さっき壺Bに赤が少ないと疑ったのだから、今度は壺Bに黒が多いはず」と考えます。そして、壺Bを選ぶのが合理的になります。
- しかし、結果はまたしても壺Aが選ばれました。
脳は何を恐れているのか?
この実験は、私たちが「赤が出る確率」を気にしているのではありません。「確率がわからない」という事実そのものに不快感や恐怖を感じていることを証明しました。つまり、曖昧ということについて不快感や恐怖を感じていることになります。
脳科学的な視点では、確率が不明な「壺B」を提示で、脳の感情中枢の「扁桃体」が反応します。つまり、敵が潜んでいるかもしれない!、騙されるかもしれない!という警戒アラートを鳴ります。対照的に、確率がわかっている「壺A」では、論理を司る「前頭前野」が落ち着いて処理します。
研究例
fMRI(脳機能磁気共鳴断層装置)を使った研究があります。曖昧な選択肢の提示で、脳の恐怖を司る『扁桃体』が激しく活動することが確認されています。一方で、リスクが明確な選択肢では、論理を司る『前頭前野』が働きます。つまり、曖昧な状況に直面したとき、私たちの脳は『論理的な思考』をシャットダウンしてしまいます。そして、『生存本能(逃走か闘争か)』に切り替わってしまうためです。
日常への落とし込み
- キャリアの選択:
「ブラックだとわかっている今の会社(リスク)」に留まり続けます。そして、「やりがいがあるか不明な未知の業界(曖昧さ)」への転職を躊躇してしまう心理です。 - メニュー選び:
初めて行くレストランで、冒険せずに「いつもの定番メニュー」を頼んでしまう心理です。
このように、私たちは『損』が嫌いなのではなく、『正体がわからないもの』が嫌いなだけなのです。だから、一歩踏み出せないのはあなたの勇気がないからではなく、脳の正常な防衛反応ということになります。
まとめ
ここまでこのブログでは、人はなぜ“曖昧さ”を嫌うのかについて、エルズバーグのパラドックス、エルズバーグの壺の実験、日常への落とし込みについて説明しました。まず、エルズバーグのパラドックスについて、リスクとアンビギュイティ、なぜ「パラドックス」と呼ばれるのか?を説明しました。次に、エルズバーグの壺の実験について、実験の設定、結果、脳は何を恐れているのか?を説明しました。最後に、日常への落とし込みについて説明しました。
何かがあって動けないことについての曖昧さが影響していることは全く知りませんでした。言われてみれば、確かにわからないから怖さがあり動けなくなるような気がしました。そして、曖昧さを解消するためには少しでもわかることを増やすことが必要だと思われます。つまり、まずは小さな情報を冷静になって集めることから始めることが重要だと思われます。ただし、得られた情報量が少なければ恐怖心は残ると思われます。しかし、場合によっては解決できることもあるかもしれないような気がしました。


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