作業中にBGMを流す会社もあります。ただし、それは小さな音で歌が入っていないものがほとんどです。しかし、家などではBGMについて歌なしという制限はありません。そして、家などで作業中に音楽を流すとき、「知らない曲より、知っている曲の方が集中できる」。 このような経験はありませんでしょうか?
作業時のBGMにその曲を知っているか、知っていないかなどは気にしたことがありませんでした。そして、知っている曲は、聞きに行ってしまうような気がしていました。しかし、“聞き慣れた曲”の方が作業はかどるということです。また、この不思議な現象には、脳の情報処理の仕組みが深く関わっています。そこで、今回はこの点に注目することにしました。なお、音楽と作業性については過去のブログにも記載しています。参照してみて下さい。音楽が作業効率を上げる時、下げる時:BGMの心理学
このブログでは、「知っている曲」の方が作業効率を上げる要因、 そうでない条件、歌詞の有無による影響、最も効率が上がる曲について調べましたので以下に説明します。
知っている作業用BGMが作業がはかどる理由
知っている曲の方が集中できるのは「脳の省エネ」のため
まず、脳は常に“予測”をしながら世界を処理しています。そして、これを 予測処理モデル(Predictive Coding) と呼びます。つまり、知っている曲は脳には“予測しやすい音”なので、処理コスト(認知負荷)が低く なります。
- 知っている曲 → 先が読める
- 知らない曲 → 先が読めず、注意が奪われる
ワーキングメモリを奪われないから
作業中に必要なのは、ワーキングメモリ(作業記憶)です。まず、知らない曲は、メロディ、歌詞、展開などを無意識に分析してしまいます。そして、ワーキングメモリを奪うことになります。一方、知っている曲はすでに記憶にあるパターンとして処理されます。そのため、ほとんど負荷がかかりません。そして、その結果、作業に使える脳のリソースが増える → 集中しやすいということになります。
“予測が当たる快感”が集中を助ける
知っている曲は、次に来る音が予測できます。そして、この「予測が当たる」という体験は、脳の報酬系(側坐核)を刺激します。その結果、少量のドーパミン を分泌します。なお、ドーパミンは、やる気、集中、モチベーションを高める神経伝達物質です。つまり、知っている曲は“軽いご褒美”を与え続けてくれるBGM として働きます。
歌詞があるのに集中できるのは「内容を追わなくていい」から
知らない曲の歌詞は、脳が意味を理解しようとしてしまいます。そして、歌詞を理解するために、言語処理領域(ブローカ野・ウェルニッケ野)が刺激されます。そのため、別の事にワーキングメモリーが奪われ、作業の妨げになります。しかし、知っている曲の歌詞は、意味を追わずに“音の塊”として処理されます。そのため、言語処理の負荷がほとんどかかりません。
作業用BGMとして「知っている曲でも集中できない」ケースもある
以下のような曲は、知っている曲でも集中を妨げます。これは、情動系(扁桃体)や注意ネットワークが刺激されすぎるためです。つまり、意識が持っていかれる曲などは集中を妨げることになります。
- 感情が強く動く曲(思い出の曲など)
- テンポが速すぎる曲
- 歌詞が強く主張する曲
- ボーカルが前面に出る曲
知っている曲の歌詞ありとなし
歌詞なしの方が「脳の負荷はさらに低い」
知っている曲でも、歌詞があると、リズム、音節、声の表情などの情報が増えることになります。そのため、完全な無負荷ではありません。一方、歌詞なし(インスト)は、音数が少ない、情報量が少ない、言語処理がゼロなので、脳の負荷はさらに低くなります。つまり、以下のような関係になります。
✔ 知っている歌詞あり曲 → 集中できる(負荷は低い)
✔ 知っているインスト → もっと集中できる(負荷が最も低い)
「歌詞ありの方が集中できる人」も一定数いる
「歌詞ありの方が集中できる人」は、脳のタイプによる違いです。それは、心理学での内向型と外向型の違いによるものです。つまり、「どちらが良いか」は脳の特性によって変わることになります。
● 内向型(HSP傾向含む)
- 外部刺激に敏感
- 音の情報量が多いと疲れやすい → インストの方が集中しやすい
● 外向型
- 適度な刺激がある方が集中できる
- 静かすぎると逆に落ち着かない → 歌詞ありの方が集中しやすい
最も作業がはかどる音楽とは?
以下の条件が最も集中に適しているとされています。つまり、「知っている曲 × 単調 × 感情が動きすぎない」 が最強の組み合わせです。
- BPM 60〜90(心拍と近い)
- 歌詞があっても“聞き慣れている”
- 音数が少ない
- 感情を揺さぶりすぎない
- 一定のリズムが続く
まとめ
ここまで、「知っている曲」の方が作業効率を上げる要因、 そうでない条件、歌詞の有無による影響、最も効率が上がる曲について説明しました。まず、効率を上げる要因について、「脳の省エネ」のため、ワーキングメモリを奪われないから、“予測が当たる快感”が集中を助ける、「内容を追わなくていい」からを説明しました。つぎに、そうでない条件について、どのような曲が該当するかを説明しました。続いて、歌詞の有無による影響について、歌詞なしの方が「脳の負荷はさらに低い」、「歌詞ありの方が集中できる人」も一定数いるを説明しました。最後に、最も効率あがる曲の条件について整理しました。
まず、知っている曲が作業をはかどらせる理由は、脳科学的に見ると非常に合理的でした。例えば、それは以下の4つのような条件を満たすものです。
- 予測しやすく、脳の省エネになる
- ワーキングメモリを奪わない
- 予測が当たる快感でドーパミンが出る
- 歌詞を意味として処理しなくて済む
つまり、知っている曲は“脳にとって負担の少ない音” だからこそ、作業がはかどるということになります。そして、これらの条件を反映したものが、BPM 60〜90(心拍と近い)、歌詞があっても“聞き慣れている”、音数が少ない、感情を揺さぶりすぎない、一定のリズムが続くということになると考えられます。そして、ワーキングメモリーについては、体調などの影響を受けそうなので体のコンデションによっても効率が上がる曲は変わるのかもしれないと思いました。

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