「これは、もう使わない!」というものがあります。そして、そう思ってゴミ箱に入れようとした瞬間、なぜか手が止まってしまうことがあります。しかし、それは、旅先で拾った形の歪な石だったり、インクの切れた古い万年筆だったりします。また、角の擦り切れたぬいぐるみかもしれません。そして、これらは、便利グッズでもないし、誰かに自慢できる高級品でもありません。つまり、効率や機能性が重視される今、それらは「価値のないもの」と切り捨てられがちです。
しかし、私たちの心は、それらが「ただそこにあること」に救われていることがあります。また、これがないと落ち着かないということもあります。そして、なぜ、私たちは特定の物にこれほどまでの愛着を感じ、安心感を覚えるのかという疑問が浮かびます。そこで、今回は、目に見えない「心の安全基地」としての物の役割について注目します。そして、心理学的な視点から紐解いていきます。
このブログでは、そこにあるだけで安心するものについて、どのようなものが救うものなのか、その具体例、なぜ安心するのか?、「マインドフルネス」との接続について以下に説明します。
どんな役立たないものが安心
心理的要因
- 移行対象(安心毛布):
子供が特定のタオルやぬいぐるみに執着する現象の大人版です。そして、その物体が「自分の一部」と「外部の世界」を繋ぐ架け橋になっている状態です。 - アフォーダンスと予測可能性:
「いつもそこにある」という不変性が、脳にここは安全だというシグナルを送ります。つまり、変化の激しいストレス社会において、変わらない物の存在は強力な癒やしになります。 - 感覚的リマインダー: 特定の置物や本が、過去の成功体験や穏やかな記憶を呼び起こします。そして、記憶を呼び起こすスイッチ(アンカー)になっていることがあります。
安心
- 手触りのあるもの:
角が丸くなった石、使い古した革のキーホルダー、くたびれたぬいぐるみ等。 - 空間を作るもの:
枯らしてしまったけれど捨てられない鉢植え、動かない古い時計、旅先で拾った貝殻等。 - 知識や記憶の象徴:
読み返すことのない背表紙を見るだけで安心する難しい本、昔のチケットの半券等。
安心するものの具体例
機能を超えた「記憶のアンカー」
インクの切れた万年筆や、使い古した文房具
- 描写:
引き出しの奥に眠っている、もう書けない万年筆があります。あるいは、学生時代から使っているボロボロのペンケースがあります。そして、それは実用性で言えば「ゴミ」に近いかもしれません。 - 心理的背景:
その物は、あなたが「一生懸命だった時間」を記憶している証人です。また、仕事で壁にぶつかった時、ふとそのペンに触れると、当時の情熱などを思い出します。そして、「自分なら乗り越えられる」という根拠のない自信が、触覚を通じて呼び起こされます。 - 伝えたいこと:
それは「道具」ではありません。そして、あなたを過去の自分と繋ぎ止めてくれる「タイムマシン」のような存在です。
五感に訴える「静かな同居人」
旅先で拾った滑らかな石や、ただの木彫りの置物
- 描写:
デスクの隅に置かれた、手のひらサイズの滑らかな石があります。そして、何に使うわけでも、高価なわけでもありません。しかし、ふとした瞬間にその冷たさや重みに触れると、不思議と呼吸が深くなります。 - 心理的背景:
人間関係やデジタルデバイスに囲まれて神経が高ぶっている時があります。そして、そのような時に「意思を持たず、ただそこに静止している自然物」に触れます。触れることにより、高ぶった神経(交感神経)を鎮めることがあります。 - 伝えたいこと:
その石は、何も要求せず、ただそこにあります。また、その石から「無条件の肯定感」を感じます。そして、常に「何かをしなければならない」という焦りからあなたを解放してくれます。
絶対的な味方、物言わぬ「守護者」
ベッドの隅やデスクにいる、古びたぬいぐるみ
- 描写:
子供の頃から一緒のクマや大人になって目が合って迎えたキャラクターだったりします。それは、少し毛並みが寝てしまっていたり、中綿が寄っていたりするかもしれません。それは、あなたが何度も抱きしめたり、そばに置いたりしてきた時間の積み重ねによります。 - 心理的背景(心理学用語:移行対象 / 安心毛布):
心理学では、これらを「移行対象」と呼びます。つまり、外の世界でどんなに否定されたり、傷ついても、ぬいぐるみは決してあなたを批判しません。そして、ただそこに座り、あなたの感情をすべて受け止めてくれます。「100%の受容」を象徴する存在です。 - 伝えたいこと:
大人になってもぬいぐるみを大切にするのは、恥ずかしいことではありません。それは、自分自身の心をやさしく抱きしめる(セルフコンパッション)ためのものです。最も純粋で効果的なツールということになります。
なぜ安心するのか?(心理学的背景)
- 「不変性」の価値:
現代人は、仕事や人間関係など、常に変化と決断を迫られています。そこで、その中で「ずっと形を変えず、そこにある」という事実があります。そして、それは、脳にとって「予測可能な安全」として処理されます。 - 心理的安全性とオブジェクト:
ウィニコットが提唱した「移行対象」という概念があります。人は物に感情を投影することで、孤独感や不安を和らげる能力を持っています。
なお、移行対象とは、イギリスの精神分析医ウィニコットが提唱した概念です。それは、乳幼児が母親との分離不安を和らげるために特別な愛着を示すものです。そして、自分のものではないが、自分の一部のように感じる」無生物を指します。毛布、タオル、ぬいぐるみなどです。
「マインドフルネス」との接続
- 視覚的アンカー(錨):
不安で思考がぐるぐる回っているときがあります。そして、そういう時にその物を見ることで「今、ここ」の現実に視点を戻すことができます。視点を戻すメリットがあります。 - 儀式化: 「朝起きて、まずその場所を見る」「帰宅して、その物に触れる」などの行動があります。そして、このような些細な動作が、心をニュートラルに戻すスイッチ(儀式)になっています。
- 注:マインドフルネス:
「今、この瞬間」の体験に意図的に意識を向けます。そして、評価や判断を加えずにありのままを受け入れる心の状態のことを言います。過去の後悔や未来の不安から離れ、呼吸や身体の感覚に集中します。そして、この集中により、ストレス軽減、集中力向上、感情コントロール力の強化が期待できる心のエクササイズです。
まとめ
ここまでこのブログでは、そこにあるだけで安心するものについて、どのようなものが救うものなのか、その具体例、なぜ安心するのか?、「マインドフルネス」との接続について説明しました。まず、どのようなものが救うものなのかについて、心理的要因、救うものについて説明しました。次に、その具体例について、機能を超えた「記憶のアンカー」、五感に訴える「静かな同居人」、絶対的な味方、物言わぬ「守護者」を説明しました。そして、なぜ安心するのか?について、「不変性」の価値、心理的安全性とオブジェクトを説明しました。最後に「マインドフルネス」との接続について、視覚的アンカー、儀式化について説明しました。
「役に立たないものが、実は大きな役割を果たしている」という言葉があります。これは中国の思想家、荘子などの言葉です。そして、今回の「役には立たないけど救われるもの」が合致しているような気がします。ただし、現在は、ミニマリズムや断捨離が流行しています。しかし、心の安定に必要な物まで手放す必要はないような気がします。そして、その小さな物は、あなたがあなたでいられるための大切なパートナーのようなもののような気がします。

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