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なぜ人は“難しい言い方”に説得されやすいのか?

心理
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 例えば、会議で同僚が「この方法は効率的です」と言ったとします。また、別の人が「この方法は認知的負荷を軽減し、パフォーマンスを最適化します」と言ったとします。この2人でどちらがもっと“説得力がある”ように感じるでしょうか。そして、後者の方が説得力があるように感じてしまうことが多いようです。また、なぜか同じ内容でも、シンプルな言い方よりも複雑な言い方の方が“説得力”を持ってしまいます。

 そして、なぜか私たちは、理解しづらい言葉に惹かれてしまっています。また、この錯覚は、日常生活からビジネス、さらには広告や政治まで広く影響しているようです。そして、このような場合に限らず、難しい専門用語横文字が並ぶ説明を聞きます。すると、「よくわからないけど、なんだか正しそうだ」と感じてしまう。もしくは、専門用語ばかりの人の話が、なぜか凄そうに聞こえてしまう。このようなことがありそうです。

 ここでは、なぜ人は、難しい言葉に弱いのか、そして、その背後には、心理学が関係しそうです。そこで、このブログでは、心理学的背景、情報の「透明度」と説得力のジレンマ、注意すべき「難解な言い回し」のパターン、「認知的流暢性」の逆説について以下に説明しています。

なぜ「難しさ」に騙されるのか(心理学的背景)

威信暗示(Prestige Suggestion)

 「何を言ったか」ではなく「誰が言ったか」で内容を信じてしまう心理が威信暗示です。

  • 「難しさ」との関係:
     専門用語や難解な数式、カタカナ語を流暢に操る人を見ます。すると、無意識に「この人は自分よりも高い専門知識や知能を持っている」と判断します。つまり、威信があると判断します。
  • 心理的メカニズム:
     内容が理解できないとき、脳は理解できないのは自分の知識が足りないからと考えます。そして、相手の話が間違っているからではないと解釈します。そして、相手への服従心や信頼感を高めてしまいます。

ハロー効果(Halo Effect)

 ある対象を評価するとき、目立ちやすい一つの特徴に引きずられて、他の特徴まで歪めて評価してしまう現象がハロー効果と呼ばれるものです。なお、以前のブログ「ハロー効果 1つの印象が全体評価をゆがめる心理」でハロー効果について触れています。参照してください。

  • 「難しさ」との関係:
     「難しい言葉を使っている」という一つの側面である知的なオーラがあります。そして、後光(ハロー)のように相手全体を照らしてしまいます。
  • 心理的メカニズム:
     言葉が難しい(知的だ)。→きっと人格も優れている。→きっとこの人の言っている主張はすべて正しい。そして、このように論理の飛躍が起こります。

 「難しさ」が説得力に変わる構造

 この威信暗示とハロー効果の2つが組み合わされます。すると、以下のような「説得の罠」が完成します。

  1. 難解な表現の提示: 理解できない言葉を聞きます。
  2. 威信暗示の発動: そして、「こんなに難しい話ができるなんて、この人はプロだ」と格付けします。
  3. ハロー効果の波及: 加えて、「プロの言うことなら、内容も正しいに違いない」と思い込みます。
  4. 認知的負荷の回避: 難しいことを考えるのは疲れるため、脳が考えるのを放棄します。そして、「この人を信じる」というショートカットを選びます。

なぜ「簡単な言い方」よりも有利になる場合があるのか?

 本来、コミュニケーションでは、認知的流暢性(情報の処理しやすさ)が高い方が好まれます。しかし、以下の条件では「難しさ」が逆転勝利します。

  • 情報の非対称性: 聞き手がその分野に詳しくない場合。
  • 不安やコンプレックス: 「自分は無知だ」と思っている相手が対象です。このような人には、難しい言葉が救いの手絶対的な正解のように見えてしまいます。

情報の「透明度」と説得力のジレンマ

 前述のように、コミュニケーションはわかりやすい(透明度が高い)ほど良いとされます。しかし、そこには奇妙なジレンマ(矛盾)が存在します。

「わかりやすさ」のジレンマ:軽視される真実

  • 透明度が高い(簡単): 内容がすぐ理解できるため努力を必要としません。そして、脳は「これは当たり前のことだ(常識だ)」と片付けてしまいます。結果として、情報の価値が低く見積もられることがあります。
  • 透明度が低い(難解): 内容を理解するのに努力が必要です。そして、これだけ難しいから、これは自分に到達できない深い真理があるはずだと判断します。このように、勝手に価値を底上げしてしまいます。

「複雑な問題には複雑な解決策」という信仰

 現代社会の悩み(経済、健康、人間関係)は複雑です。そのため、簡単な解決策を提示されると、かえってそんなに単純なはずがないと不安になります。 そして、あえて難解なプロセスや理論を提示されることで、この複雑な説明こそが、私の複雑な悩みに見合っているという納得感(錯覚)が生まれてしまいます。

注意すべき「難解な言い回し」のパターン

 「説得」ではなく「煙に巻く」ことを目的とした文章によく見られるパターンです。そして、このようなパターンはこれに当てはまったら要注意!と注意をする必要があります。

抽象的な名詞の多用

 簡単にわかりやすく伝える時に、動詞で言えば済みます。そこで、あえて抽象的な名詞に変える手法です。

  • 簡単: 「この計画を進めれば、みんなが幸せになります。」
  • 難解: 「本スキームの遂行は、包摂的な幸福の最大化を企図するものです。」
  • 心理: 動作を表す動詞を名詞に変更します。このようにすることで、客観的で動かしがたい「真実」のように見せています。

あいまいなカタカナの多用

 定義の曖昧なカタカナ語や専門用語を重ねて、本質を隠す手法です。

  • 例: 「アライアンスをレバレッジし、シナジーを最大化するスキームの策定が急務です。」
  • 心理: 読者は「自分の知識不足」を疑い、聞き返すことをためらいます。その隙に、「凄そうな雰囲気」だけを植え付けます。

二重否定と受動態

 「〜ではないとは言えない」「〜が想定される」といった回りくどい言い方です。

  • 例: 「効果が期待できないとは言い切れない側面があることが示唆されています。」
  • 心理: 断定を避けつつ、何か大きなことを言っているような「権威的な響き」だけを残します。そして、責任の所在を曖昧にする際によく使われます。

「認知的流暢性」の逆説

脳の「手抜き」と「深読み」の切り替え

 人間の思考には、直感的な「システム1」と、論理的な「システム2」があります。なお、このシステム1、システム2については、以前のブログで取り上げています。「素早く判断 いろいろなヒューリスティック」、「「いかにも!」で判断を誤る心理 :代表性ヒューリスティック」を参照してください

  • 流暢性が高いとき(簡単):
     脳は「これは安全だ、知っている内容だ」と判断し、システム1(直感)で処理します。結果、深く考えずに受け入れますが、記憶には残りにくいという側面があります。
  • 流暢性が低いとき(難しい):
     脳は「おっと、これは複雑だぞ」と警戒し、システム2(論理的思考)を起動させます。この「あえて脳に負荷をかける状態」が、逆説的な効果を生みます。

逆説が生まれる3つの心理的背景

「希少性の原理」: 難しい=価値がある

 私たちは「簡単に手に入る情報」よりも「苦労して理解した情報」に価値を感じます。以下に例をしめします。このように、脳が「難易度」を「情報の質」と履き違えてしまいます。

  • 誰にでもわかる言葉 = 一般論、どこにでもある情報
  • 専門的で難しい言葉 = 選ばれた人しか知らない、貴重な真実

「自己正当化」:理解できた自分への報酬

 難しい文章を時間をかけて読み解いたとき、人は「これだけ苦労して読んだのだから、価値がある内容に違いない」と思い込もうとします。また、これは認知的不協和の解消です。そして、理解できた瞬間に「自分は知的な人間だ」という快感が伴うため、その情報をより強く信じ込んでしまいます。なお、認知的不協和については、以前のブログ「「認知的不協和とは?」人が言動を正当化してしまう心理」に記載しています。参照してみて下さい。

期待値の投影

 「高名な教授」や「最先端の科学者」という肩書き(威信)がある場合、読者は「難しいはずだ」という期待を持って読みます。

 ここで内容が簡単すぎると、逆に「大したことない」と失望されますが、難解であればあるほど「期待通り、やはりこの人は次元が違う」と納得してしまうのです。

実験で証明された「難しさ」の効果

 プリンストン大学の研究(2011年)では、非常に興味深い結果が出ています。つまり、文章の読みづらさが脳の「システム2(論理的思考)」を強制的に起動させ、結果として学習効率が上がったという逆説的な結果でした。

  • 実験の内容:
     学生に資料を読ませる際、「読みやすいフォント」と「あえて読みづらい(かすれた)フォント」の2種類を用意しました。
  • 結果:
     読みづらいフォントで学んだ学生のテストの成績方が良いという結果でした。

まとめ

 ここまでこのブログでは、難しい言葉に弱い心理学的背景、情報の「透明度」と説得力のジレンマ、注意すべき「難解な言い回し」のパターン、「認知的流暢性」の逆説について説明しました。まず、心理学的背景について、威信暗示ハロー効果「難しさ」が説得力に変わる構造なぜ「簡単な言い方」よりも有利になる場合があるのか?を説明しました。次に、情報の「透明度」と説得力のジレンマとして、「わかりやすさ」のジレンマ、「複雑な問題には複雑な解決策」という信仰について説明しました。そして、注意すべき「難解な言い回し」のパターン、抽象的な名詞の多用、あいまいなカタカナの多用、二重否定と受動態を説明しました。最後に、「認知的流暢性」の逆説について、脳の「手抜き」と「深読み」の切り替え逆説が生まれる3つの心理的背景実験で証明された「難しさ」の効果を説明しました。

 また、真の専門家は、難解な概念を子供でもわかるように翻訳できる人のような気がします。 逆に、難しい言葉の裏に隠れて本質を煙に巻く表現には、威信暗示という魔法がかかっているかもしれません。そして、注意が必要な気がしました。

 

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