会社で、重要な戦略を決める会議があったとします。冷静に考えれば手堅いA案を選ぶべきです。しかし、議論が白熱し、なぜかリスクの高いB案に、全員の意見が傾いてしまう。また、友人たちといると、一人ではしないような無謀な挑戦に同意してしまう。例えば、高額な買い物、危険な遊びなどです。そして、集団で議論を重ねるほど、個人の判断よりも危険な結論に移行しやすいこの現象を、心理学ではリスキーシフト(危険移行)と呼びます。これは、「みんなで決めたから大丈夫」という責任の分散の影響があります。そして、加えて挑戦を美徳とする心理が複合的に作用することで起こります。
このブログでは、リスキーシフトが生まれるメカニズム(集団極性化)、組織の失敗につながる無謀な決断を避けるための具体的な防止策について以下に説明します。
リスキーシフトのメカニズムと要因
定義と提唱者
- 定義: 集団で意思決定を行う際、個々人が単独で下す決定と異なった結果になります。つまり平均してリスクの高い(危険な)方向へ決定が移行します。このリスクの高い方向に移行する現象をリスキーシフトと呼びます。
- 提唱者: 心理学者ジェームス・ストーナー(James Stoner)によって発見されました。
リスキーシフトが発生する主要なメカニズム
リスキーシフトの原因には、いくつかの心理的な要因が複合的に作用しています。
- 責任の分散(Diffusion of Responsibility):
- 集団で決定を下すと、「失敗しても自分のせいだけではない」と感じます。その結果、個人が感じる責任の重さが軽くなります。そして、この心理的負担の軽減が、リスクの高い選択を許容しやすくします。
- 文化的価値観としてのリスク(Risk as a Cultural Value):
- 欧米や競争意識の高いビジネス文化では、リスキーな提案が評価されやすくなります。つまり、大胆さ、勇気、挑戦がポジティブとして評価されやすくなります。集団内で、よりリスキーな提案をする人が勇敢な人と見られ賞賛されやすくなります。
- 慣れと極端化(集団極性化の一種):
- 議論を通じて、メンバーは他者が自分以上にリスクを受け入れていることを知ります。その結果、元の自分の意見よりも少しでもリスクの高い方向へ意見を修正します。そして、最終的に結論が極端化(集団極性化)します。
集団思考(グループシンク)との違い
- リスキーシフト: リスクの度合いが移動する現象です。そして、最終決定の内容に焦点を当てています。
- 集団思考: 批判的思考の欠如により、コンセンサスを優先する現象です。意思決定のプロセスに焦点を当てています。
- 注:リスキーシフトは、広範な現象である集団極性化の一種として位置づけられています。なお、集団思考は、以前のブログ「集団思考(グループシンク): 場の空気に流され、集団で非合理的な意思決定をしてしまう現象」に書いています。必要な場合は、参照をしてください。
リスキーシフトを防ぐための対策
集団のエネルギーを、無謀な挑戦ではなく合理的な決定に向けるための対策を説明します。
- ① 匿名による意見収集:
- 議論の前に、匿名で、各メンバーに希望するリスクレベルを提出させます。例えば、デルファイ法などを用います。そして、責任分散や見栄による影響を排除します。
- ② 責任の可視化:
- 「最終決定者が誰であるか」を明確にします。そして、責任の分散を意図的に防ぎます。または、全員が決定に伴うリスクを具体的に記述させます。
- ③ 反対意見の奨励と標準化:
- リスキーな案が出た場合、その案のデメリットや最悪のシナリオを徹底的に議論する時間や役割(悪魔の代弁者)を設けます。
- ④ データの客観視:
- 感情ではなく、過去データや客観的な統計に基づいたリスク評価に返る習慣をつけます。例えば、期待値計算などの客観的な評価をします。
まとめ
ここまで、リスキーシフトが生まれるメカニズム(集団極性化)、組織の失敗につながる無謀な決断を避けるための具体的な防止策について以下に説明しました。まず、リスキーシフトのメカニズムと要因について、リスキーシフトが発生する主要なメカニズム、集団思考との違いから説明しました。次に、リスキーシフトを防ぐための対策の匿名による意見収集、責任の可視化、反対意見の奨励と標準化、データの客観視を説明しました。
成功をするためには挑戦が必要なことは周知の事実です。しかし、これらの結果から、リスクを直視することはもっと重要でした。つまり、集団議論の熱狂は時にポジティブなエネルギーを生みだします。しかし、それは同時に無謀な決断を生む土壌ともなり得ます。それゆえ、会議の熱気の中でこそ、一歩引いて客観的に判断することはが必要になります。そのために「この決断を、一人の私自身が責任を持てるか?」と問い直します。この行動が、質の高い意思決定につながると考えられます。


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