空に浮かぶ雲を眺めていて、「あれ、あの雲、キリンみたい!」。あるいは、「こっちはうさぎが跳ねているみたいだ」。このような感じをしたことがありませんでしょうか? また、特定の形のない雲や、壁のシミ、木目の模様などが動物や人の顔に見えてしまうことがあります。この現象には、ちゃんと名前がついています。それがパレイドリア現象(Pareidolia)です。
このブログでは、このパレイドリア現象がどのようなものか?、そして、特に顔に見えるシミュラクラ現象、日常とパレイドリア現象、パレイドリア現象と脳機能の関係について調べました。以下にこれらの内容について説明します。
パレイドリア現象って、一体何?
本来意味のないぼんやりとした模様や音の中に、顔や動物、あるいは「人間に知ったパターン」を無意識に見てしまう心理現象です。雲の形が人の顔や動物の姿に見えたり、壁のシミが人の顔に見えたりする視覚的な例や、音楽を逆再生したときに言葉が聞こえる聴覚的な例があります
- 意味づけする心の働き
- これは心理現象のひとつです。普段からよく知っているものの形を本来意味のない模様などに当てはめてしまう。つまり、本来はそこに存在しないのに普段から知っているものを思い浮かべるというものです。
- また、ぼんやりとしたランダムなパターンの中に、意味のあるパターンを見つけ出そうとします。特に、生き物や顔などを見つけ出そうとします。人間は、このような知覚のクセを持っています。
- 語源はギリシャ語
- パレイドリア(Pareidolia)は、ギリシャ語、ギリシア語の「パラ」と名詞の「エイドーロン」に由来しています。
- 生存本能との関連
- これは人間の生存本能に関係していると考えられています。遠くにいる動物や、暗闇に潜む敵の顔や姿を、いち早く察知して危険を回避するためにものです。そして、脳がわずかな情報からでもパターンを認識することが進化した結果のようです。
特に顔に見えるのは「シミュラクラ現象」
パレイドリア現象の中でも、特に「顔」に特化した現象があります。これは、シミュラクラ現象(Simulacra)と呼ばれています。また、シミュラクラは英語で「偽者」や「幻影」という意味を持ちます。
- 「∵」の記号:この記号を見たとき、多くの人が「顔」に見えています。
- これは、目・目・口(鼻)のように、点や線が逆三角形に配置されます。すると、脳が自動的に人の顔だと判断してしまう現象です。
- コンセントの穴や車のフロント部分などが顔に見えます。そして、これらも、このシミュラクラ現象によるものです。
心理学的背景
人間は、他者の顔や表情を認識する能力が非常に発達しています。これは、社会生活を送る上で、相手の感情や意図を素早く読み取るために不可欠な能力です。そして、これらの能力は生存にも関わります。そのため、脳はわずかな情報からも顔のパターンを自動的に探し出し、認識しようとします。この「顔認識システム」が過剰に働いた結果が、シミュラクラ現象であると解釈されます。
パレイドリア現象との違い
| 現象名 | 特徴 | 見える対象の例 |
| パレイドリア現象 | ランダムなパターンから、意味のあるパターンを認識する現象全体。 | 雲が動物に見える、月がうさぎに見える。 |
| シミュラクラ現象 | パレイドリアのうち、特に人の顔に特化した現象。 | コンセントが人の顔に見える、壁のシミが幽霊の顔に見える。 |
日常とシミュラクラ現象
シミュラクラ現象は、日常生活や文化にも深く関わっています。
- 心霊写真: 不鮮明な写真に写ったランダムな模様を、人の顔や姿だと認識してしまうことがあります。そして、これらのケースの多くは、このシミュラクラ現象で説明できます。
- デザイン: 顔のパターンが人々の注意を引きやすい性質を利用します。キャラクターデザインや商品パッケージに意図的に顔の要素を取り入れることもあります。
- ロールシャッハ・テスト: 心理学で使われている検査です。被験者にインクのシミという無意味なパターンを見せます。そして、被験者がどのような意味(顔や動物など)を見出すかを分析します。これにより、深層心理を探るもので、パレイドリア(シミュラクラ含)を応用しています。
パレイドリアを楽しもう!
パレイドリア現象は、特別な能力ではなく、誰もが持っているごく自然な心の働きです。
- 身近な例を探してみる:空の雲はもちろん、壁の模様、パンの焦げ目、コーヒーの泡などです。日常のさまざまな場所で「隠れた顔」や「隠れた動物」を見つける遊びとして楽しめます。
- 深層心理との関係:上記のインクのシミが何に見えるかを答えてもらうロールシャッハ・テストです。これは、このパレイドリア現象を応用し回答者の深層心理を読み解くために使われています。
この現象を知っていると、いつもの空や景色が、もっと面白く、豊かに感じられるかもしれません。「あの雲、何の動物に見える?」と友達や家族と話してみるのもいいかもしれません。
パレイドリアと脳機能の関係
パレイドリアが起こる際、脳内では主に以下の機能が働いています。
俊敏な「顔認識システム」の関与
人間や動物は、環境の中に存在する顔や生き物を素早く認識する能力を持っています。これは、敵や捕食者、または仲間を瞬時に見分け、生存に関わる判断を下すために非常に重要です。
- 脳の部位: 特に人の顔を処理するために特化しているとされる脳の部位、紡錘状回顔領域や、初期の視覚情報処理に関わる後頭葉などが関与していることが、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)などの研究で示唆されています。
- 「過剰検出」: パレイドリアは、この顔認識システムがわずかな刺激やノイズに対しても感度が高すぎるために起こる現象、つまり顔を過剰に検出している状態と解釈されます。
視覚情報の処理と省エネ戦略
脳は新しい情報を処理する際、負荷を軽減するために既知のパターンに当てはめようとします。これが、意味のない刺激に意味を見出す原因となります。
- 予測: 脳は、過去の経験や知識に基づいて、今見ているランダムな模様(例:雲、壁のシミ)の中に「顔」や「動物」といった意味のあるパターンが存在すると「予測」します。
- 修正: 実際の視覚情報が曖昧であるため、脳はその予測に合うように情報を補完・解釈し、結果としてそこにないはずの顔やパターンを「見てしまう」のです。
確証バイアスとの関連
一度「顔」や「動物」に見えてしまうと、脳はそのイメージに合う情報だけを選択的に認識します。そして、合わない情報を無視する確証バイアスが働きます。
- これにより、見る人は「これは本当にそこに存在する」という確信を強めます。そして、それがランダムな模様だと理解しても、一度認識したイメージを打ち消すことが難しくなります。
情動との関係
パレイドリアで認識される「顔」は、しばしば感情を伴います。例えば、笑っている顔、怒っている顔などです。
- パレイドリアを見た時に本物の顔の時と似た感情処理の脳活動が研究により確認されています。つまり、扁桃体などの情動に関わる部位の活動を引き起こすことが示されています。
これらのことから、パレイドリア現象は、生存に有利に働くよう進化した、非常に効率的で、かつ柔軟性に富んだ人間の視覚・認知システムの現れであると言えます。
まとめ
ここまでパレイドリア現象がどのようなものか?、そして、特に顔に見えるシミュラクラ現象、日常とパレイドリア現象、パレイドリア現象と脳機能の関係について説明しました。そして、本来意味のないぼんやりとした模様や音の中に、顔や動物、あるいは「人間に知ったパターン」を無意識に見てしまう心理現象がパレイドリアでした。また、特に、パレイドリア現象の中でも、顔に特化したものがシミュラクラ現象でした。
また、壁のシミや心霊写真がパレイドリア現象であることは何となく想像はつきました。しかし、デザインなどの商用に使われていることは知りませんでした。そして、この現象の裏には脳の情報処理の省エネルギーや確証バイアスなどが関与していました。そして、いろいろな場面で現れてくるので難しいような気がしました。


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