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忘れたはずの言葉が、気づけば心に残っている スリーパー効果

心理
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 「最初はあまり信じられなかった、時間がたつと妙に納得してしてた」というのが今回のテーマです。ただ、残念なことに私の記憶にはこのような経験はありません。これは、心理学で 「スリーパー効果(Sleeper Effect)」 と呼ばれる現象です。つまり、情報を受け取った当初はあまり影響力がありません。しかし、時間が経過するほど説得力が増してしまうという不思議な心理効果です。

 このブログでは、このスリーパー効果がどのようなものか、具体的な例、行動へのヒントなどについて調べました。以下にこれらの内容について説明します。

スリーパー効果とは?

 スリーパー効果は、 信ぴょう性が低い情報や、一度は無視されたメッセージが、時間の経過とともに効果を持ち始める現象を指します。言い換えれば、説得力の低い情報源(信用できない)のメッセージを受け取ったとします。しかし、時間が経つにつれてその内容だけが記憶に残り、信じやすくなる現象です。つまり、通常、説得力は時間とともに弱まっていくものです。しかし、スリーパー効果では逆に、情報が「じわじわ効いてくる」ように作用します。これは、特に情報源の信頼性が低い場合に顕著に現れます。

仕組み

  1. 情報源とメッセージをセットで処理
    • 最初に聞いたとき、人は「この情報は信用できるかどうか」を判断します。
    • たとえば、「怪しい広告のセリフ」等というラベルを一緒に覚えます。
  2. 時間とともに“情報源”を忘れる
    • 人間の記憶は、内容よりも情報源を忘れやすい傾向があります。
    • エビングハウスの忘却曲線でも示されているように、細部はどんどん失われていきます。
  3. メッセージ内容だけが残る
    • 数日から数週間後、情報源の信頼性を忘れても、メッセージは記憶に残っていることがあります。
    • その結果、「怪しい情報」が、「どこかで聞いた正しい話」として信じられるようになります。

具体的な例

  • プロパガンダ映画:
     第二次世界大戦中に心理学者カール・ホブランド提唱がきっかけの研究です。戦意高揚を目的のプロパガンダ映画を兵士が視聴時、直後は「政府の宣伝だ」と疑念を抱きます。しかし、数週間後には、映画のメッセージ内容(戦争の正当性など)に対する賛同が増加していました。
  • ゴシップ・都市伝説:
      最初は「あの人が言っていたから嘘だろう」と信じなかった情報です。しかし、時間の経過とともに「聞いたことがある」というメッセージの内容だけが残ります。そして、その後信憑性が高いものだと勘違いされて拡散されることがあります。
  • 広告・マーケティング:
     新規参入の企業などによる商品レビューなど、初めは信頼性が低くものです。しかし、インパクトのある商品情報やメリットを繰り返し伝えます。これにより、時間差で消費者の購入意欲の向上につながることが期待されます。
  • 噂話
     友人から「根拠のない噂」を聞いたときは信用しません。しかし、時間経過で「そういえばそんな話もあったな」と事実のように思い込むことがあります。
  • 政治・社会的メッセージ:
     信ぴょう性の低いスローガンやキャッチコピーがあります。しかし、繰り返し聞き、時間が経過します。そして、心理的な影響力を増すことがあります。
  • SNSの投稿
     信頼性の低いSNSの投稿を最初は疑います。しかし、後から「そんな話を聞いたことがある」と誤って信じてしまいます。

行動へのヒント

  • 情報を聞いたときは「誰が言ったか」もセットでメモしておきます。
  • 時間がたっても「根拠が弱かった情報は信じない」と意識します。
  • 広告や噂は「じわじわ効いてくる」ことを前提に、距離を置いて受け取ります。
  • 情報に流されないためには、「記憶は都合よく変化する」を知ることが最大の防御策です。

記憶のメカニズム

 スリーパー効果の鍵は、情報の内容と信頼できない情報源との記憶の結びつきが弱まることです。つまり、記憶忘却という、脳が担う基本的な機能の相互作用によって生じる現象です。情報源の低信頼性という抑制因子の記憶が時間とともに衰えます。そして、残されたメッセージの内容が遅れて影響力を持ちます。これが、脳機能の観点からその本質であると説明されます。

1. メッセージと情報源の分離(解離仮説)

 スリーパー効果の主要な理論的根拠は「解離仮説 (Dissociation Hypothesis)」です。これは、脳内でメッセージの内容に関する記憶と、情報源に関する記憶が別々に処理されます。そして、時間とともにその結びつきが弱まることを示唆しています。

  • メッセージの内容: 説得力のあるメッセージは、長期記憶として比較的長く保持されます。
  • ディスカウンティング・キュー(情報源の信頼性): 情報源の信頼性の低さという否定的な要素は、メッセージの内容に比べて忘れられやすい(または、メッセージとの関連付けが弱まりやすい)とされています。

 時間経過後、メッセージの内容を思い出します。その際、その情報を打ち消すはずだった「情報源の信頼性の低さ」というディスカウンティング・キューが「アクセスしにくく」なります。そして、メッセージの説得力が発揮され、態度変容(スリーパー効果)が起こります。

2. ソース・モニタリングの失敗

 この分離現象は、記憶における「ソース・モニタリング (Source Monitoring)」機能と深く関連しています。

  • ソース・モニタリングは、「いつ、どこで、誰から、どのような状況でその情報を得たか」という情報源を意識的に識別・評価する認知プロセスです。
  • スリーパー効果が起こる状態は、時間経過でソース・モニタリングが機能しにくくなることを意味します。
    • つまり、人はメッセージの内容は正確に思い出せます。しかし、「これは信頼できない人の情報だった」という情報源の属性を思い出しにくい状態です。
    • この状態では、情報内容だけが独立して、その内容の説得力に従って態度が変化します。

まとめ

 ここまでこのスリーパー効果がどのようなものか、具体的な例、行動へのヒントなどについて説明しました。まず、スリーパー効果は、最初は疑わしい情報が、時間が経つと逆に信じられてしまう心理現象でした。これは、脳が「情報源」を忘れやすく「内容」だけを記憶に残すために起こりました。また、脳は「誰が言ったか」を忘れやすく、「何を言ったか」だけを残しやすいものでした。また、広告・噂・プロパガンダなどでよく利用されています。つまり、私たちの判断は常に合理的ではなく、記憶の仕組みによって大きく左右されていることを認識する必要があります。

 そのため、自分が影響を受けないためには、「情報の内容」だけでなく「誰が言ったのか」も意識して記録しておくことが大切だと考えられます。

 

 

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