「ちょっとだけでいいから手伝ってくれない?」と言われて手伝ったことがあります。そして、その手伝いはすべてが終わるまで手伝うことなってしまいました。これは、最初小さなお願いを聞いてしまうと、その後の大きなお願いもつい受け入れてしまう。これは偶然ではなく、心理学の「フット・イン・ザ・ドア技法」というテクニックのようです。こんなテクニックがあったとは知りませんでした。そしてこの技法は、営業や募金活動、さらには日常の人間関係でもよく使われているようです。
今回のブログでは、このフット・イン・ザ・ドア技法がどのようなものか、どうして効果があるのか、具体例、活用法について調べました。以下にその内容について説明します。
フット・イン・ザ・ドア技法とは
まず、最初に相手が受け入れやすい小さな要求をして承諾を得ます。そして、間を置いて本来の目的である大きな要求をします。この方法がフット・イン・ザ・ドア技法というものです。最初の小さな承諾によって、後の大きな要求に対しても応じてもらいやすくなる効果が期待されます。
名前の由来
「フット・イン・ザ・ドア」(ドアに足を挟む)という名前がついています。これは、訪問販売のセールスマンが、ドアが閉まらないように片足を差し入れました。そして、話を聞いてもらうことから、徐々に本格的な営業に入っていく様子に由来しています。
有名な実験例
1966年、フリードマンとフレイザーの実験で、この効果が実証されました。
- 研究者は、ある住宅街の住民に小さい依頼をします。それは「安全運転を呼びかける小さなステッカーを窓に貼ってほしい」というものでした。
- 数週間後、大きな以来の同じ住民に「庭に大きな看板を設置してほしい」と頼みました。
結果:最初にステッカーを貼るという小さな依頼を承諾した人の方が、後の大きな依頼(看板設置)にも応じやすいというものでした。
なぜ効果があるのか?
このテクニックが効く理由には、心理学的な背景があります。
- 段階的コミットメント
- 小さな承諾の積み重ねが、大きな承諾につながります。
- 一貫性の原理
- 一度 YES を出すと、その後も同じ態度をとろうとします。
- 自己認識の変化
- 「自分は協力的な人だ」と思うようになります。そして、次の依頼にも応じやすくなります。
働く心理
フット・イン・ザ・ドア技法は、主に一貫性の原理と自己知覚理論という心理学的メカニズムに基づいています。
一貫性の原理と認知的不協和
フット・イン・ザ・ドア技法の最も重要な心理的根拠は、人々が自分の態度や行動を一貫させようとする一貫性の原理です。
- 最初の承諾 (小さな要求): 「協力的な人」としての自己イメージなどが形成されます。
- 認知的不協和の回避: 次に大きな要求を拒否すると、「自分は協力的で一貫性のある人間だ」という自己イメージ(態度)と、「要求を拒否した」という行動との間に認知的不協和が生じます。
自己知覚理論と自己イメージの形成
また、フット・イン・ザ・ドア技法は、自己知覚理論によっても説明されます。
- 自己知覚の発生: 人は自分の行動を観察します。そして、それによって自分の内的な態度や感情を推測します。つまり、最初の小さな要求に「イエス」と答えるという行動を観察します、そして、その結果、「自分はこの問題に関心がある」「自分は助けになる人間だ」という自己認識(自己イメージ)を形成します。
- 一貫した行動の継続: この新しく形成された「協力的な自分」という自己イメージと一貫した行動を取ります。そのため、関連する二度目の大きな要求にも応じやすくなります。
具体例
この技法は、ビジネスや日常生活で幅広く活用されています。
- 試供品・無料体験:
- 最初に「無料の試供品やサンプルを試す」「無料体験レッスンを受ける」という小さな要求(承諾しやすい行為)から始めます。
- その後、「商品の購入」や「有料サービスの契約」という大きな要求につなげます。
- アンケート・資料請求・メルマガ登録:
- まず、「簡単なアンケートに答える」「無料の資料を請求する」「メルマガに登録する」といった手間のかからない要求をします。
- 次に、より手間やコストのかかる「商品のデモ視聴」「本契約」などに誘導します。
- 寄付・ボランティア:
- 「交通安全の小さなステッカーを貼る」という小さな依頼を承諾してもらいます。そして、その後、数日経ってから「安全運転を呼びかける大きな看板を庭に設置させてほしい」という大きな依頼をします。
- 営業:まず、「資料だけご覧いただけますか?」という小さな依頼をします。そして、その後「契約をご検討ください」という大きな以来をします。
- 募金活動:まず、「少額でも大丈夫です」という小さな依頼をします。そして、その後「定期的なご支援をお願いします」という大きな依頼をします。
- 人間関係:まず、「ちょっと相談していい?」という小さな依頼をします。そして、その後「実は大きなお願いがあって…」という大きな依頼をします。
効果的に活用するためのポイント
- 最初の要求は小さすぎないように: あまりにも要求が小さいと、後の大きな要求とのギャップが大きくなりすぎて、一貫性の原理が働きにくくなることがあります。
- 要求は段階的に大きくする: 最初に受け入れてもらった行動から、徐々に難易度を上げていくことが効果的です。
- 最初の承諾に対して大きな報酬を与えない: 小さな要求に対して大きな報酬を与えてしまうと、「報酬のために承諾した」という動機(アンダーマイニング効果)が生まれ、「協力的な自分」という自己認識が薄れ、一貫性の原理が働きにくくなります。
- 活用する側:いきなり大きなお願いをせず、段階を踏むと受け入れてもらいやすいです。
- 気をつける側:「小さなお願いだから」と安易に YES を重ねると、断れない流れを作られてしまいます。
まとめ
ここまでフット・イン・ザ・ドア技法がどのようなものか、どうして効果があるのか、具体例、活用法について説明しました。そして、フット・イン・ザ・ドア技法は、一貫性の原理を利用して小さな要求から大きな要求へとつなげる、穏やかで段階的なアプローチでした。具体的には、小さな YES を積み重ねることで、大きな YES を引き出す心理テクニックでした。
また、この技法は、営業や勧誘でも日常生活の人間関係でもよく見られる現象でした。そして、私もこのようなお願いをされたことが多々ありました。そして、「小さなお願いをされたときこそ、その先にもっと大きな依頼が来るかもしれない」と意識することが必要であると感じました。加えて、私も無意識にこの技法を使ったことがあることを薄っすらと思い出しました。


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